シロッコ手習鑑

どうすれば登校拒否や引きこもりをサポートできるのか。高卒シニアなのに放送大学で心理学を学び始めました

山田洋次監督の「同胞(はらから)」(2)・本物の青年団は役者さんよりリアル

 

あの頃映画 「同胞」 [DVD]

あの頃映画 「同胞」 [DVD]

 

 本物の青年団が出演している

この映画には岩手県松尾村の本物の青年団が映画に出演しています。この映画を見た当時は「地元の青年を映画に出演させるのは地域振興の意味でもあるのかな」と単純考えていました。

このころ私は、日本映画よりも洋画が好きでした。日本映画は知っている役者さんが出てきますから、見たとたんにウソの世界だと分かります。ところが、洋画は知らない役者さんが演じますから、映画の世界に入り込みやすかったのです。しかし、この映画の場合、重要な役は役者さんが演じていますから、ドキュメンタリーに見えるような効果を期待しているはずはありません。

DVD「同胞(はらから)」のには「特典」として「特報/予告編集」「山田洋次監督 自作を語る」「シネマ紀行」というオマケ映像がついています。山田洋次監督 自作を語る」は元山田組の助監督・鈴木敏夫さんがインタビュアーになって、「同胞」について対談しています。そのなかで山田洋次さんは、本物の青年団が出演していることについて話しています。

最初は役者さんに青年団の役を演じてもらい、その方言指導のような意味で青年団の人たちをお願いしていそうです。青年団の人たちは実際にこの映画と同じようなことを体験していましたから、アドバイスするような役目があったのかも知れませんね。台本を読んで方言指導をしてもらう。そうしているうちに「やはり本物の青年団の方がリアリティがある」と考えるようになって、役者さんには別な役に回ってもらい、自分たちの役を演じてもらったのだそうです。

ですから、役者さんでない素人が演じているのは、地域振興でも、有名な役者さんでないことによるリアルさが狙いでもなかったのですね。

結果はどうだったのか。実際に映画を見ると、ほとんどの本物の青年団は「この人は素人だな」とすぐ分かります。それが良い影響なのか、悪い影響なのか、全員プロで撮影した映画と比較しないことには、私には分かりません。

「てつや」はずっとプロだと思っていた

本物の青年団の中でも、ずっとプロだと思っていた人がいます。それは郵便配達の「てつや」を演じている藤田賢吉さんです。DVDの付録で山田監督の話を聞いて初めて本物の郵便屋さんだとは知らなかったのです。

そして、郵便配達の「てつや」はひときわ目立つ役です。

統一劇場の公演を引き受けるかどうか話し合う最初の会合が終り、青年団員と最終列車に乗り遅れて泊めてもらうことになった賠償千恵子さん演ずる河野がスナックのような店に飲みに行きます。そこで、店のオーナーで同じ青年団の忠治が河野に「てつや」の失敗談を話すシーンがあります。

郵便屋の「てつや」はミス農協の惚れてラブレターを書いてポストに投函するのですが、それを配達して届け、ポストに入れられた断りの手紙も自分の家へ配達した、そんな話を河野にして忠治は「てつや」をからかうのです。それで皆んなは大笑い。(この話、DVDで本当のエピソードだと山田監督が話しています)

それから、もうひとつ。「てつや」が賠償千恵子さん演ずる河野さんにダンスを申し込んで踊ります。ジルバをそれなりに踊るので冷やかされ、歓声をあげられたりします。

「てつや」はストーリー展開にはほとんど関係のない役です。それでも、かなりの長い時間が使われ、ケンカをしそうになったり、からかわれたり、村の青年団員の仲の良さや雰囲気を紹介する重要な役なのですね。それを素人の藤田賢吉さんが演じている。それは本当に凄いことだと今になって感心しますね。

「てつや」が出演依頼を承諾すれば、今の武田鉄矢さんはなかった?

もうひとつのオマケ映像が『シネマ紀行・映画「同胞」の村を訪ねて』。女優の柴山智加さんが『同胞』が撮影された村を訪ね、ロケに使われた場所を紹介したり、青年団の役で出演した本物を青年団の人たちと話をする15分ほどの動画です。「25年前、『同胞(はらから)』という私の大好きな映画が撮影された」というナレーションから始まりますから、1975年の25年後、2000年頃に作られたDVDのようです。

このDVDは、まず、村の小さな酪農家を訪ねます。主人公である高志が住んでいるという家のロケ地ですね。それから、白樺が一本生えている牧草地。ここは公演も間近になったというのに、青年団長の高志が「公演を中止してもらいないか」と切り出すシーンが撮影されました。

そして、柴山さんは松尾中学を訪ねます。松尾中学はクライマックスである統一劇場のミュージカル「ふるさと」が上演される場所。そして、公演を実現する最後の難関である大滝秀治さん演じる「営利目的の興行に体育館は貸せない」と言っていた中学校長からOKを貰って飛び跳ねながら走るシーンが撮影された場所です。

そこで柴山さんは青年団を演じていた5人の本物の青年団だった人たちに話を聞きます。工藤金子さん、郵便配達役を演じた本物の郵便配達・藤田賢吉さん、当時本物の青年会長だった高橋松雄さん、男前だから役者さんかと思ってみていた古川恵一さん、小川久美子さんです。

山田監督が注文する演技を芝居など演じたことのない若者がやる訳です。「大変だったよ~」とみなさん話していますね。

そして、柴山さんは「本物の役者になりたいとは思いませんでした?」と役者さんらしい質問をします。そうすると、「声を掛けられたんだよね」と言う話になります。

郵便配達を演じた藤田賢吉さんに映画出演の話が来ていたのです。

「国家公務員の方がいいんだ、いいんだ、って。でも、やったら面白かったかも知れないね」

そう言われると藤田さん、次の年には「幸福の黄色いハンカチ」が公開されたから、武田鉄矢さんが演じた役だったのではないかと言います。

出演していれば今ごろ雲の上の人になっていたかもね、と仲間がいうと藤田さんは「その可能性もあるな」と言います。

山田監督は武田鉄矢さん「母に捧げるバラード」を聞いて、「黄色い幸福のハンカチ」の若者を演じて欲しいと思ったと聞いたことがあります。刑務所から奥さんの待つ家へ帰る高倉健さんと一緒に旅をする若者ですね。その前に藤田さんに声を掛けていたようです。

しかし、藤田さん、どうして断ってしまったのでしょう? みなさん、撮影のときは大変だったよ、と言ってます。山田監督の演技指導は厳しいという話を聞きます。だから「公務員の方がいいんだ」と断ったのかも知れないですね。

賠償千恵子さんと青年会のメンバーが別れる駅

柴山さんは元青年会のメンバーと山田監督直筆の記念碑を訪ねます。そして「松尾八幡平駅」から帰ります。この「松尾八幡平駅」は映画のラストで青年会のメンバーが賠償千恵子さんに記念のバッグを渡し、別れるシーンが撮影された場所です。柴山さんは「そのまんまだ」と言い、DVDには映画に登場した駅が映し出されます。

しかし、グーグルストリートビューを見るとそれほど古くない小屋があるだけ。ウィキペディアによりますと、駅は無人化になり、その後しばらく駅舎が残っていましたが取り壊されて簡素な待合室だけになったのだそうです。もう、そんなに時間が経ってしまったのかと思うと感無量です。

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