目次
- 買おうか買うまいか、何度も本を手に取っては戻した
- 「火花」はどんな話なのか
- 神谷というキャラクターは横山やすしさんを思い浮かべた
- 和田アキ子さんが「何も感じなかった」と言っているそうですが
- 五木寛之さんの「男だけの世界」を思い出した
- 最後に
買おうか買うまいか、何度も本を手に取っては戻した
本屋さんに平積みになっている「火花」を見かけたのが、今年の春。手に取って何行か読んでみては、元の場所に戻す。そんなことを何度も繰り返していたのですが、ついに買いました。
作者の又吉さんはお笑い芸人らしいのですが、どんな人なのかも分かりませんでした。本を手に取ってページをめくります。半分くらいの余白に続いて文字がびっしり書いてあります。色の具合からいうとかなり黒い。漢字がかなり多いからです。2,3行読んでも何の話か分かりません。きっと、この本は私には合わない、そう思って本を元に戻します。積ん読になっている本がいっぱいあって、それよりも、そちらを読むのが先と判断したからです。
そうしているうちに三島由紀夫賞候補。受賞は逃しましたが評価は高かったというニュース。
そして、5月23日(土)のTBS「サワコの朝」に出演した又吉さんの話を聞いて、凄い人だなと思い、その時に聞いた芥川龍之介の「トロッコ」の話が面白かったので「トロッコ」を読んでみました。そのときのブログが『又吉直樹さんにインスパイアされて芥川龍之介の「トロッコ」を読んでみた』です。
やっぱり、「火花」を読んでみようかと本屋さんに寄ると在庫がありません。市川駅前、駅ビルにある2軒の本屋さん、千葉ワンズモールの本屋さんにもありません。
ようやく「火花」を見つけても、やはり読みたい本でもなさそうで、無理して読まなくてもいい、と本を戻します。
又吉さんは芥川賞を受賞。プレバト俳句で1位。120万部を突破して増刷されているはずなのに在庫がないのです。200万部突破。
そんなことを何度も繰り返し、そして、とうとう買いました。
「火花」はどんな話なのか
「火花」は売れない芸人の話です。語り手の徳永が熱海の花火大会で漫才を演じているところから始まります。次に出演した先輩芸人・神谷の芸に衝撃を受けます。徳永は神谷に飲みに誘われたのをきっかけに弟子になることを志願。伝記を書く条件で受け入れられます。
その神谷と徳永の交友が描かれます。起きる出来事はそれほど大きなことではありませんが、神谷という世間では評価されない天才と徳永との会話が漫才になっていたり、理想の漫才は何かという演芸評論になっています。
売れない芸人や役者が、居酒屋で「何のために芝居や漫才をするのか」と究極の理想を語り続けている熱気を脇で聞いている心地よさ、そんな雰囲気を味わいました。
神谷というキャラクターは横山やすしさんを思い浮かべた
徳永が弟子入りした神谷はお笑いのためなら何でもする破天荒の芸人です。最初にイメージしたのは「横山やすし・西川きよし」の横山やすしさん。その横山やすしさんが真面目に漫才のことしか考えていなくて、金銭感覚など普段の生活はかなりムチャクチャにしたような人です。
そして、その彼が芸人として、人としての生きざまが美しく、徳永が神谷の幸福を願うように、私も神谷の成功を願いながら読みました。でも、実際の社会でもそうであるように評価してくれないのですよね。
師匠である神谷の芸に対する姿勢は異常なまでに真摯です。それが美しく表現されています。道端の太鼓奏者と変なセッションを始めたり、その描写は見事で面白かった。
徳永と師匠の神谷は会話というか、哲学問答のようなものをよくやります。
「美しい世界を、鮮やかな世界をいかに台なしにするかが肝心なんや」。
師匠の神谷の言葉は芸能の神のように話します。
しかし、徳永と神谷は二人だけに分かる価値観の中にいます。それは面白い漫才を目指しているから成立する世界なのですが、子どものママゴトのようにも見えます。「禁じられたあそび」のミシェルとポーレットが小動物のお墓を作り続けるような。ちょっとした狂気の世界でしょうか。
和田アキ子さんが「何も感じなかった」と言っているそうですが
TVの世界を憧れて目指す芸人を美しく思うことは、実際にTVの現場に立ってしまっている人には感じることが出来ない部分なのかも知れません。
五木寛之さんの「男だけの世界」を思い出した
「火花」を読みながら思い出したのは昔読んだ五木寛之さんの「男だけの世界」でした。
「第三演出室」。使いものにならなくなったディレクターが窓際のような「第三演出室」に異動になるが、組合のストで華々しい現場に復帰される段取りが進む。演出に生きる男。
「老兵たちの合唱」。芸能プロモーターが平均年齢六十八歳の黒人ジャズ・バンドを本場ニューオリンズから呼び寄せる。その老兵たちの合唱。
芸能に生きる姿のカッコ良さが共通していると思いました。
最後に
面白かった。100%の出来ではないというか、この人ならもっと上手く書けるようになるんじゃないか、そう思いました。
映像化が決まっているそうですが、この小説は映像で表現するのはとても難しそうです。小説では、物語の中で漫才を演じたり、太鼓奏者とセッションをしたりします。読者は理想の漫才をイメージし、観客の反応も理想的にイメージを膨らませて、ドラマ空間が完成します。けれども、映画では実写する訳です。理想のイメージに近づけるのは困難だと思うのです。
音楽をバックにイメージの画像がながれるような映画にになるのでしょうか。監督は誰で、どんなキャスティングをするのでしょうか。楽しみでもあります。
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