【注意】ネタバレです。私は映画はある程度の情報を集めてみた方が映画の良さを味わえると思います。しかし、逆に考える人は読まない方が良いと思います。
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アメリカン・スナイパー ブルーレイ&DVDセット (初回限定生産/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
- 発売日: 2015/07/08
- メディア: Blu-ray
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スナイパーに感じる卑怯さ
「アメリカン・スナイパー」はイラク戦争に従軍した狙撃手の原作を元に作られた映画です。キャッチコピーは「米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親」。
原作のモデル、クリス・カイルは敵のイラク兵士から「ラマーディーの悪魔」と呼ばれて恐れられていました。狙撃手は、遠く離れたところに身を隠して敵を射撃します。それが、マイケルムーアは「卑怯だ」と言ってました。
「アメリカンスナイパー」予告動画
予告の動画に狙撃手の本質が見事に映されています。
瓦礫だらけの戦場。ひとり高い安全な場所でスコープのついた銃を構えるスナイパー。眼下では戦車と共にアメリカ兵が敵を確認しながら進む。
そこに不信な女性と子供が近づきます。自爆テロか?
イスラム圏独特の黒い布をまとった女性の姿がスコープで覗いたアップとして映しだされます。戦闘員の姿はしていません。しかし、もし自爆テロならば仲間の命が奪われてしまいます。
スナイパーは引き金を引くのか、引かないのか・・・。
もうひとつは子ども。
子どもが、道に落ちていた肩に担ぐタイプのロケット砲をひろいます。この子どもがロケット砲を撃てば仲間の命が奪われてしまいます。
スナイパーは子どもがロケット砲を置いて立ち去ることを願うのですが・・・。
撃つべきなのか、撃たないのか。
戦争映画の戦闘シーンは激しく撃ちあうことがほとんどで、人の命を奪うことの残酷さが描かれることは、それほど多くありません。スティーブン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」がそうでしたし、韓国映画の「高地戦」もそうでした。仕掛けた爆弾を処理する「ハートロッカー」は自分が危険を冒します。
しかし、アメリカン・スナイパーはクライマックスに派手な戦闘シーンがありますが、基本として身を隠して狙撃します。遠く離れた安全な高い場所から、スコープを覗いて照準を合わせて引き金を引くのです。
スナイパーは安全な場所にいます。撃とうとしている相手は少なくともスナイパーを攻撃しようとしているのではありません。それも、映画に登場するのは、女性や子供を狙撃しようとするシーンです。スナイパーを描いたことで、戦場で起きているのはひとりひとりに対する殺人行為であることがくっきりと浮かびあがるのです。
アメリカでは、この映画に対して論争が起きたそうです。自分たちのした戦争の残酷さが浮かび上がってしまったからなのでしょう。
そんな残酷さを浮かび上がらせるクリント・イーストウッドは凄いというしかありません。
戦争映画は何度も見たいとは思いません
小道具としての携帯電話の使い方が見事です。
戦場なのに奥さんと話しています。それが途中で戦闘になってしまいます。奥さんは音だけですから心配です・・・。
そのとき、どんなカットをどんな順番で並べれば、奥さんの気持ちが画像として表現できるのか。巨匠、クリント・イーストウッドは見事に描きます。
主人公のスナイパーは、壊れていきます。
「米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親」。爆撃でミサイルを撃ち込んだのとも、地上戦での撃ちあいとも違う、ひろりひとり射殺するという行為の重さから壊れるのです。
戦争映画は何度も見たいとは思いません。
クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」も見るのがつらかった。プライベートライアンは少し救われるところがあります、ライアンが救われますから。
韓国映画の「高地戦」は、同じ民族の友情と戦う悲しさがうまくドラマになっていましたね。「JSA」と同じ脚本家です。
派手な戦闘シーンがあって多数の人が命を落とし、負傷する。けれども、見ている人には何故戦闘をするのか、その意味がさっぱり分からない。
そして、主人公の人格と家庭が壊れて行く。ラストの派手な葬式のセレモニー。
見終わると、それで現実にあるこの命の奪い合いは何の意味があるの? そんな疑問が生まれてしまう。無駄な戦闘の意味を考えてくれ。そう言っているような映画でした。