目次
ベストセラー作家が書いたベストセラーの書評
読みかけになっていた井上ひさしさんの「完本 ベストセラーの戦後史」を完読しました。それにしても、こんなに面白い本が読みかけになったままだったのか?
この本の発売日は2014/02/20ですから、その年あたりに購入して読み始めたのでしょう。しかし、読んでいる途中にまた別の本が読みたくなって読みはじめて・・・と続いているうちにこの本のことを忘れてしまったようです。
ベストセラー作家が書いたベストセラーの書評なんだから、これを読めば書評を書く極意が分かるんじゃない? そんなことを考えると続きを読みたくなって読み始めました。
井上ひさしさんはベストセラーの型を6種類に分類しています。それから、ベストセラーを続出させたカッパ・ブックスの創始者・神吉晴夫の創作出版術十ヶ条も紹介されています。時代背景を語ってベストセラーの背景を分析したり、自分の体験と比較したり。もちろん、本の内容の解説も詳しく書かれています。
書評や感想文のお手本にすべきです。
井上ひさしさんの本の読みやすさはずば抜けています
今、放送大学で『「ひと学」への招待』と『心理と教育を学ぶために』を学習しています。「感情の起源」とか「教育学って何?」とかを説明していただいているんですけれども、45分くらいのラジオ番組で説明するのですから、抽象度の高い用語が出てきて理解するのがとても大変です。
学術教科書と商業エンターテイメント本を比べるのは間違っていますけれど、井上ひさしさんの本はほんと読みやすいです。
井上ひさしさんの書斎にはこんな言葉を書いた紙が貼られてあったそうです。
むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいなことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと
いかに読みやすく書こうとしていたかが分かります。
それと、井上ひさしさんは日本語にも造詣が深くて、日本語に関する本を何冊も書いています。
- 「自家製 文章読本」
- 「私家版 日本語文法」
- 「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」
- 「日本語教室」
- 「にほん語観察ノート」
- 「井上ひさしの日本語相談」
1~3の三冊は読んだことがあります。
- 「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」は岩手県で開かれた「作文教室」の記録
- タイトルの「141人の仲間たち」は井上ひさしさんの希望で入れた
- 無料の教室だった
- 最後に提出した課題の作文を徹夜で読んで全部に適切なコメントをつけた
覚えているのは文章とは全く関係のないことばかり・・・Orz
それから、井上ひさしさんはオーストラリアの大学で日本語を教えていたこともあります。
文章展開の仕方が見事ですから、真似する価値はあると思います。
書評を読んで買いたくなった本
井上ひさしさんの書評は面白いです。その秘密は巻末の添付資料「創作ノート」をみれば分かります。
ネタをだして、構成をさんざん考えてから書いているのですね。B5の横罫ノートにメモが書いてあったり、原稿用紙に書いた年表や雑誌の切り抜きが貼り付けてあったりします。このメモを見るだけでも、参考になります。
- 「愛情はふる星のごとく」
この本は買うつもりです。
朝日新聞社記者でしたが、ソ連のスパイとして活動したことから逮捕され、死刑になった尾崎秀実が家族に書いた手紙です。死を前にして娘や妻へ語りかけるのですから読む価値があるに決まっています。
井上ひさしさんはベストセラーを次の要素に分類しています。
①セックスもの
②真相はこうだ、もの
③愛と死もの
④人生論もの
⑤実用書もの
⑥占い、予言もの
この『愛情はふる星のごとく』にないのは「①セックスもの」の要素だけだと言っています。 - 「論文の書き方」
この本はアマゾンのレビューを読んで購入してあったのですが、積ん読になっていました。
井上ひさしさんは、「買い集めた本はほとんど散逸してしまったが、それでも二冊、いまだに手放すことができすに机辺に置いてあるものがある」と紹介しているのがこの『論文の書き方』と『哲学・論理用語辞典』だと言います。
引用してある「ディレンマ」の例が面白かったので、『哲学・論理用語辞典』も購入してしまいました。*1
昭和28年に「皇太子履修単位不足事件」があり、出席日数が足りない分を外遊体験を単位に見立て進級を認めようという意見が多かったとき、著者である学習院大学政治学科・清水幾太郎教授は「規則に従って、模範的な行動をされるべきです」と発言したエピソードが紹介されています。
こんな話を聞いて読みたくなり、積ん読を卒業しました。 - 「間違いだらけのクルマ選び―良いクルマを買うための57章+全車種徹底批評」
もうアマゾンに在庫はありませんね。買っといてよかった。
橋本忍さんの「複眼の映像―私と黒澤明」に映画評論家が映画を酷評して試写会に行けなくなった事件の話がありました。自動車の世界も同じでライターはユーザ視点からで正直なことを書けなかった。
そこに国産車をけなしまくった本が出版されたのでベストセラーになったということです。
本が発売されてから一年後の1977年10月に著者「徳大寺有恒」の正体が明かされます。日本グランプリレースに出場したこともある杉江博愛という人物だったのです。当時の車を徳大寺有恒さんはどんな批評をしたのか、知りたくて本を買ったのでした。
書評のどんなところが参考になったのか
書評の書き方は多彩です。紹介されている35冊の中からどんな紹介のされ方をしているのか書いてみます。
- 「日米会話手帳」昭和20年
英語が禁止された話から始まります。野球の用語が禁止された話、雑誌の名前が変った話、俳優さんの名前。
そして、作者の学校での体験ですね。先生に言われたことを当時の新聞記事を見て分析しています。
そのあとは戦後の話になり、3ケ月で「日米会話手帳」を出版する物語です。まぁ、よく調べてあります。
それから内容を分析して面白く紹介しています。 - 「太陽の季節」昭和31年
井上ひさしさんが浅草のフランス座で働いていたときに見た映画「太陽の季節」が封切りされたときの様子から始まります。
呼び込みのおじさんが立てた障子の前で「太陽の季節」の有名な一節を読むのです。
それから、登場人物の世界が井上ひさしさんとはまるっきり違う裕福な生活であることが描かれます。
石原慎太郎さんの東宝に入ったときのエピソード。芥川賞選考委員のコメント紹介。
時代背景の紹介。そして石原裕次郎さんの話にもおよびます。
二冊の紹介の仕方を書いてみて気が付くのは、自分の体験を描いて基準を明確にしていることです。
例えば私が「間違いだらけのクルマ選び」の書評を書くなら、当時自分が乗っていた車について書いて、「間違いだらけのクルマ選び」で批評されている車と常時私が描いていたその車のイメージの差、それに対する感想を書くことになりそうです。
紹介されているベストセラー
次の35冊です。
- 「日米会話手帳」昭和20年
- 「完全なる結婚」昭和21年
- 「旋風二十年」昭和22年
- 「愛情はふる星のごとく」昭和23年
- 「この子を残して」昭和24年
- 「宮本武蔵」昭和25年
- 「ものの見方について」昭和26年
- 「三等重役」昭和27年
- 「光ほのかに」昭和28年
- 「女性に関する十二章」昭和29年
- 「広辞苑」昭和30年
- 「太陽の季節」昭和31年
- 「挽歌」昭和32年
- 「経営学入門」昭和33年
- 「論文の書き方」昭和34年
- 「性生活の知恵」昭和35年
- 「英語に強くなる本」昭和36年
- 「易入門」昭和37年
- 「危ない会社」昭和38年
- 「愛と死をみつめて」昭和39年
- 「おれについてこい!」昭和40年
- 「人間革命」昭和41年
- 「マクルーハンの世界」昭和42年
- 「どくとるマンボウ青春記」昭和43年
- 「都市の論理」昭和44年
- 「知的生産の技術」昭和44年
- 「心 いかに生きたらいいか」昭和45年
- 「日本人とユダヤ人」昭和46年
- 「日本列島改造論」昭和47年
- 「恍惚の人」昭和47年
- 「日本沈没」昭和48年
- 「ノストラダムスの大予言」昭和49年
- 「欽ドン」昭和50年
- 「四畳半襖の下張裁判・全記録」昭和51年
- 「間違いだらけのクルマ選び」昭和52年
「危ない会社」のところで、出版社であるカッパブックスの創業者である神吉晴夫の創作出版十ヶ条が紹介されていて、ブロガーには参考になります。
まとめ
ベストセラー作家が書いたベストセラーの書評「完本 ベストセラーの戦後史」を読みました。この本にはブログのヒントが盛りだくさん。書評や感想文のお手本として最高だと思います。
こちらもオススメ
*1:ちなみに、私が今気に入っている項目は「アナロジー」です。