【注意】ネタバレです。
目次
- 「カサブランカ」のラストが腑に落ちません。
- カサブランカという場所
- 黒人のピアノ弾きサム
- 主人公リックを歌った「カサブランカ・ダンディ」
- なぜ、リックは身を引いてラズロとイルザを逃がしたのか
- 感情は理屈より圧倒的に正しい
「カサブランカ」のラストが腑に落ちません。
「 第三回 新・午前十時の映画祭・市川コルトンプラザ会場」で「カサブランカ」を見てきました。
この映画は太平洋戦争の最中の1942に公開され、第16回アカデミー作品賞、監督賞、脚色賞を受賞。米脚本家組合が発表した歴史上もっとも優れた映画脚本ベスト101の1位にも選ばれ、アメリカ映画ベスト100の1位。ロマンス映画として不滅の人気があります。しかし、私がこの映画を見るとはそんなに優れているのか、私によく分からないところがありました。
まず、ひとつ。簡単に言うとこの映画は男ふたりに女がひとりの三角関係の話なのですが、主人公のリックは最後にイルザを恋敵であるはずのラズロに渡して見送ってしまうのです。この結末には不満が残ります。
それから、DVDなどで見る限り前半が退屈でした。
「風と共に去りぬ」や「ローマの休日」、「アパートの鍵貸します」などは最初から面白くて何度も繰り返して見ているのですが、「カサブランカ」は2、3度しか見ていないと思います。それが大きな画面で見るとどうなるか、それを確認したいと考えたのです。
カサブランカという場所
「カサブランカ」はフランス領モロッコにある都市の名前です。
ドイツ軍の侵攻が激しい時期。ヨーロッパからアメリカへ行くためには、マルセイユから地中海を渡ってカサブランカへ行き、リスボンからアメリカへ行くしかありませんでした。
カサブランカからリスボンへの飛行機は出ていますが、ビザのない人は足止めをされていました。リスボンへ行くには無記名ビザの入手が必須。これがポイントですね。
- ハンフリー・ボガード演ずるリックはナイト・クラブを経営しています。そこへドイツ抵抗運動の指導者ラスロと妻のイングリット・バーグマンのイルザが現れます。
- ドイツ軍が侵攻を始める前のパリ。リックはイルザと出会い恋仲でした。二人は一緒に逃げる約束をしていましたが、彼女は時間になっても来ません。そのまま会えなかったのです。
- ラズロとイルザはアメリカに向かうために通行証が必要です。イルザは盗んだ通行証を預かっているリックに頼みます。
- イルザがパリでリックに恋したのは、ラズロがドイツ軍に殺されてしまったと思ったから。パリに姿を現さなかったのはラズロが無事だと分かり、ラズロが病気で看護をするためだったからと話します。
- イルザはビザを渡さないリックに拳銃を向けます。しかし、撃つことは出来ません。ここでイルザとリックはパリ時代の仲に戻ります。
- さて、イルザはリックとカサブランカから出るのか、ラズロと出るのか、世紀の大三角関係となるのです。
舞台をカサブランカという特殊な場所に設定したことで、舞台劇のような圧縮したドラマになりました。それぞれが、過去を背負ってカサブランカに集まってきたのです。
黒人のピアノ弾きサム
Casablanca (1942): Play it Sam, Play As Time Goes By. Ingrid Bergman, Humphrey Bogart, Sinatra sings(パブリックドメイン)
リック、ラズロ、イルザの3人以外にも重要な役を持った登場人物がいます。
最後はリックと友情で結ばれることになる警察所長も重要ですが、黒人のピアノ弾きサムが重要ですね。
リックの店にイルザとラズロが入って来たのを見つけて、何かが起こると思ったのか嫌な顔をするサム。
イルザが黒人のピアノ弾き、サムに「あれを歌って・・・As Time Goes By」と催促するんですけどサムは歌いません。
サムが歌わないものですから、イングリッド・バーグマンが口ずさんで歌いだすのですね。それをサムがピアノを弾きながら加わってくる。映画じゃなくたって素敵なシーンです。
ラ、ライラライラ、ラ~♪ ラ、ライラライラ、ラ~♪
すると、リックが「この歌は歌うなと言っただろう」と入ってきます。
イングリッド・バーグマンの美しさには酔いしれてしまいますね。
イルザと再会してしまって苦しむリック。そんなリックを心配するサムとの芝居もあります。でも、ラストには出てこないんですよね。
主人公リックを歌った「カサブランカ・ダンディ」
「ボギーボギー あんたの時代はよかった」(うたまっぷ.com)と語りかける歌があります。阿久悠さん作詞の「カサブランカ・ダンディ」です。歌ったのは沢田研二さん、1979年にリリースされた楽曲です。
ボギーとはこの映画の主人公を演じたハンフリー・ボガードのニックネーム。阿久悠さんはリックに対して「あんたの時代はよかった」と言っているのです。それは何故なのでしょうか?
- 「男がピカピカのキザでいられた」「男のやせがまん 粋に見えたよ」
だから、阿久悠さんはよかったと言っているのですね。
阿久悠さんはリックを「ダンディ」と言っています。それでは「ダンディ」とはいったい何なのでしょう。「おしゃれで、伊達で、禁欲主義に近い態度」。うむ。やせがまんをしてイルザと別れたと阿久悠さんは言うのですね。それがキザで美しく粋だと。
なぜ、リックは身を引いてラズロとイルザを逃がしたのか
イルザがラズロのためにリックを訪ねても、リックはビザを渡しません。
「ひがんでいる」「卑劣だ」とののしり、拳銃まで出します。
「撃つならうて」と言われたとき、イルザの心はパリのときに戻ってしまうのですね。そして、熱いキス。
だけれども、最後はリックはラズロとイルザをリスボンへの飛行機に乗せてしまうのです。
なぜなんでしょう?
ラストのリックの心理についてはいろんな人が深く検討しているようです。
感情は理屈より圧倒的に正しい
ボギーが三角関係から身を引いてカサブランカに残り、イルザとラズロを逃がしてしまうのはおかしいと思いませんか?
義母はこの映画をリアルタアイムで見たそうで、「いいストーリィよね」と言います。クライマックスになってくると三人とも自分はいいからというスタンスになってきま
す。義母はそれが美しく見えるのかも知れません。それに、女性の視点ならイルザに注目がいくでしょうから、なんてイルザは自由に生きているのでしょうとうらやましく感じるのでしょう。
たしかに、元々イルザとラズロは結婚しているのですし、彼女を幸せにしてやりたいからリックは身を引くのは妥当な判断かも知れません。
しかし、それが正しいのか。連合赤軍の活動家・永田洋子氏が亡くなったとき、はてなの有名ブロガーであるChikirinさんが2011/02/08に「永田洋子氏 死亡」という記事を書きました。その中で「感情より理屈を優先したらアカンよね」、「感情は理屈より圧倒的に正しい」と言っています。
ダスティン・ホフマンが演じた「卒業」のように奪ってしまえというか、理性が強くて悲劇になるよりも、もっと感情を優先して欲しかったなと思います。そう考えるのは、自分が感情を優先して生きることが苦手なタイプだからかも知れません。
それから、「前半がたいくつ」という問題は、映画館では最初から緊張感があってたいくつどころではありませんでした。台詞の中に何度か「ラズロ」とう言葉があり、彼を説明する部分があります。これはかなり重要なのですが、初めて映画を見るときはそのことは特に記憶に残らなかったと思います。ビデオ、DVDで見たときに前半がたいくつと感じたのは、そんなことが原因だと思います。
こちらもオススメ