ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか (光文社新書)
- 作者: 宗田哲男
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/11/17
- メディア: 新書
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目次
この本はどんな本なのか?
この本は産婦人科医である宗田先生が一部からは批判がある「糖質制限」ついて、 糖質制限が安全であり、逆に健康なる理由を説明した本です。
同じ光文社から出版された夏井先生の「炭水化物が人類を滅ぼす」という本があります。「人類を滅ぼす」から「人類を救う」へ。このタイトルから「夏井先生に続いて糖質制限の素晴らしさを訴えるぞ!」そんな気迫を感じることができます。
「ケトン体」ってナニ?
タイトルにある「ケトン体」。糖質制限をしている人にはおなじみな言葉でも、普通はケトン体なんて知らないですよね。
- ケトン体とはアセトン・アセト酢酸・β-ヒドロキシ酪酸を総称して言う言葉だそうです。なんだか良く分かりません。
- ケトン体は脂肪酸、アミノ酸が肝臓で分解されてできるもの。(ケトン体尿検査の定性判定一覧表)
- 脂肪酸とは油脂の成分。常温で液体もものを「油」と呼び、常温で固体のものを「脂肪」と呼ぶ。アミノ酸はタンパク質の成分。
つまり、油脂やタンパク質を食べるとケトン体になります。
ケトアシドーシス
普通の人の血中ケトン体の基準値は「26~122μM/L 」くらいです。その値が高くなるとケトアシドーシスになると恐れられています。
この過剰に提供されたケトン体によってアシドーシス(血液が酸性に傾く状態)となる。このようなケトンによるアシドーシスは特にケトアシドーシスと呼ばれ、特に糖尿病によって引き起こされた場合を糖尿病性ケトアシドーシスという。
数日間から数時間で多尿・嘔吐・腹痛などの症状が現れ、進行すると昏睡や意識障害をきたし、死亡する場合もある。
しかし、糖質制限をしていると食事は脂肪やタンパク質がメインですから、血中のケトン体濃度は高くなります。私も糖質制限をしていますから、400くらいはあります。
絶食療法中やスーパー糖質制限食の初期には、血中ケトン体は、3000~4000μM/Lくらいで、基準値の30~40倍の高値になりますが、それ自体は、人体の各細胞において全く安全なものです。
(ドクター江部の糖尿病徒然日記「血中ケトン体の安全性と基準値、そして糖質制限食、2013年」)
facebookの糖質制限グループや糖質制限をしている人のブログでは、検査結果の数値を公表してケトン体が多いことを健康である証として自慢しあったりします。
なぜこのような違いがでるのか、そしてそれはどちらのとらえ方が正しいのか。この本を読み進めれば問題と答えが明らかになっていきます。
糖質制限の良さを知った産婦人科医の戦いの記録
この本を書いた宗田先生は、私が2013年7月から定期的に検査を受けている千葉県市原市の産婦人科医です。(参考:どうして男性なのにマタニティクリニックで診察を受けているのか)
先生は、50代を過ぎると肥満がひどくなり、ついに糖尿病になって しまいます。しかし、「釜池式」糖質ゼロ本と出会い、糖尿病も肥満も克服して健康になりました。
メタボや糖尿病になると医師は「肉や脂肪を控えて、野菜を中心に食事をとりましょう」と言います。ところが、全く逆のことをして健康になったのです。
なぜだろうか? そう疑問を持った宗田先生が、糖質制限が健康に良いと確信を持つに至ります。
現在の糖尿病治療に疑問を持った宗田先生は、妊婦の糖尿病に糖質制限を取り入れることになります。結果は期待どうり。
しかし、それを日本糖尿病・妊娠学会で発表すると非難の嵐だったのです。
その後の詳しいことは、ぜひ本で確認してください。ここでは目次の概要をお知らせします。(アマゾン「内容紹介・出版社からのコメント」に詳しい目次があります)
はじめに
序章 本書で伝えたいことのあらかじめのまとめ第1章 私が糖尿病になったころ
第2章 妊婦の糖尿病に、はじめての糖質制限
第3章 ケトン体物語・前編……学会での非難から、新発見へ
第4章 ケトン体物語・中編……さらに勇気ある妊婦の登場!
第5章 ケトン体物語・後編……こんなにすごい「ケトン体エンジン」
第6章 栄養学の常識は、じつは間違っている!
第7章 妊娠糖尿病とはいったい何か……妊娠期の人体が教えてくれること
第8章 さらば、白米幻想!
第9章 学会というおかしな世界……糖質制限批判を考える
第10章 「たくましき妊婦たち」と「ケトン体」が日本を救う! 《体験談》
最終章 ケトン体がつくる未来
おわりに
糖尿病を経験した産婦人科医だからこそ出来た偉業
宗田先生は臍帯血(さいたいけつ・へその緒の血液)・絨毛(じゅうもう・胎盤の血管)・新生児の血液を検査して、母親のおなかにいる赤ちゃんのケトン体濃度がとても高いことを発見しました。それまではブドウ糖で生きていると考えられていましたから、世界的な大発見です。
なぜ、宗田先生がそれを発見できたのか?
その要素を拾いだしてみます。
- 先生は千葉県市原市の産婦人科医です。産婦人科医になる前の研修医のときは内科、外科、小児科をローテートしたそうです。もし、内科医になっていたら、こんな世界的新発見はなかったと思います。
- 宗田先生は自分が糖尿病になり、「釜池式」糖質ゼロ本と出会い、糖尿病を克服して健康になりました。産婦人科医になっても、もし、糖尿病にならなかったら、普通の産婦人科医で終ってしまっていたのではないでしょうか。
- 糖質制限と出会って江部先生と親交があったから、「胎児のエネルギー源は何か?」と宿題が出されます。
- 学会で発表したから「簡易ケトン体測定器」と出会います。この測定器を入手できたのも幸運でした。
- 宗田先生には変った経歴があります。最初から医師を志したのではなく、北海道大学理学部で地質学を学び、地質調査の仕事をしてから医師になりました。もし、医師にならなかったら、この本が書かれなかったのは間違いありません。
- 地質学を学んで貝塚などの発掘調査をしましたから、人類の歴史に興味を持っていました。それは「ヒトは何を食べてきたのか?」の考察に威力を発揮します。
ダーウィンの人類はアフリカで生まれたという仮説から、人間は肉食動物であったこと。貝塚の調査から割り出した縄文時代の日本人のカロリーの割合。このへんを読むと、推理小説の探偵が犯人をつきとめ、謎解きの説明をしているのを読んでいるような快感があります。
いろんな要素が重なったからできたことだと分かります。先生が、糖尿病治療の常識をひっくり返すために生まれてきた人なのではないかと思え、興味深いものがあります。
イノベーションのジレンマ―糖尿病学会は糖質制限を採用できるのか
イノベーションのジレンマ とは、巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論です。(イノベーションのジレンマ - Wikipedia)
例えばマイクロコンピュータの登場による技術革新がこれにあたります。
コンピュータの世界ではIBMなどの巨大企業が高度な技術を持って世界を支配していました。ところが、インテルが日本企業の依頼でマイクロコンピュータを開発したことから状況は一変します。(設計に嶋正利さんが参加)
高度な技術をもつ巨大企業は、おもちゃのようなマイクロコンピュータが成長することは予想できても、稚拙な技術に差し替えることはできません。売り上げが少なくなります。今まで築いてきた高度な技術を見捨てることはできないのです。
これと同じようなジレンマが糖尿病学会にはあるのではないでしょうか。
糖質制限は本を2,3冊読めば素人でも実行出来てしまう簡単な技術です。本格的な糖尿病治療に使用するとすれば医師の管理が必要かもしれませんが、今まで蓄積されてきた高度なインスリンによる治療技術は必要なくなってしまうのです。製薬会社の売り上げも減ります。治療費もほとんどかからなくなってしまいます。
何年かすればコンピュータの世界に起きたことが、糖尿病学会に起きるのかもしれません。
- 糖尿病性壊疽:湿潤治療と糖質制限のコラボで完治! 糖尿病で足が壊疽になり、切断するしかなかったという話を聞いたことがあるかと思います。これは「炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学」「傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学」などの著作で有名な成外科医・夏井先生が糖質制限で壊疽を治した様子です。これも画期的なことではないでしょうか?
宗田先生がシェアしたfacebookの記事に、ある医学雑誌の編集後記が紹介されていました。
医師が執筆した一般向けの単行本が増えています。10年前に比べたら激増しています。新しい診断・治療パラダイムに気がついた著者が本を出版しているのです。
これを論文として世に出そうとすると、新しいパラダイムなので、従来の論文の引用ができなくなります。そうすると、”科学的根拠が乏しい、エビデンスがない”と判断されてしまいます。つまり、論文は従来のパラダイムの範囲内での科学的真実は受け入れるが、新しいパラダイムの科学的真実は受け入れられないシステムとなっています
https://www.facebook.com/tetsuo.muneta/posts/914932951916555
医療の世界に新し風が吹いているのを感じる出来事です。
まとめ
私が通院している宗田マタニティクリニックの 宗田先生が「ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか」とう本を出版されました。
本には、今まで危険とされてきたケトン体が安全である証拠が発見されたことが書かれています。それは、ヒトがどんな進化をし、今まで何を食べてきたか、を考察する大きなヒントとなっています。
糖質制限にはどんな意味があるのでしょうか?
ケトン体は私たちの健康を取り戻してくれる。そんなメッセージの本です。
勧善懲悪のエンターテイメントのような面白さでした。
是非、みなさんも読んでください。
腎臓が悪い人、糖尿病の薬を飲んでいる人は要注意
- 腎臓に負担がかかります。腎臓が悪い人は医師に相談してください。
- 糖尿病の薬を飲んでいる人は低血糖になる可能性があります。医師に相談してください。
炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学 (光文社新書)
- 作者: 夏井睦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/10/17
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イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
- 作者: クレイトン・クリステンセン,玉田俊平太,伊豆原弓
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- 発売日: 2001/07
- メディア: 単行本
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