目次
- 人間にとって一番大切なものは記憶
- 記憶にはいろんな種類のものがある
- 急激な感情の動きが記憶の強さに影響する
- 嫌な記憶に限ってよく思い出してしまう
- どんな仮説の実験により記憶の謎を解明してきたのか
- 子どもの食べ物好き嫌いは親の責任ではない
記憶と情動の脳科学―「忘れにくい記憶」の作られ方 (ブルーバックス)
- 作者: ジェームズ・L.マッガウ,久保田競,大石高生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/04/21
- メディア: 新書
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人間にとって一番大切なものは記憶
人間にとって一番大切なものは「記憶」です。
記憶がなかったら、過去の自分と現在の自分の連続性がなくなり、言葉も話せなくなり、人格も維持できません。せっかく自転車に乗れるようになったのにそれも出来なくなってしまいます。歩く方法も赤ちゃんのときに記憶したはずで、それもできなくなり、下等な生物になってしまいます。
そんな大切な記憶はどのようにして行われるのか。この本は脳科学の世界的権威・マッガウが歴史に残る色んな実験を紹介しながら脳が記憶を作る仕組みを解説した入門書です。
読んでみて感じたのは、この本には面白いだけでなく、現実に役に立ちそうなことがあるということです。
- 急激な感情の動きが記憶の強さに影響するそうです。だったら、からそれを学習に利用できないか?
- 記憶の仕組みを解明するために行われた歴史に残る実験が紹介されます。それが面白いばかりでなく、考察の手法が自分が考えるときのお手本として役立ちそうです
- 食物の嫌悪学習など、今まで知らなかった意外な知見を得られました。
これらについて紹介します。
記憶にはいろんな種類のものがある
あれ? 今、何をしようとしていたんだっけ・・・と、自分がバカになったかと心配することがあります。
でも大丈夫。これは短期記憶の有効期限が過ぎただけです。複雑なものを全て長期間記憶している訳ではありません。数字で言うなら7桁程度です。
記憶にはいろんな種類のものがあります。この本の最初にある「訳者註ー記憶に関する用語について」を略して紹介します。
- 感覚記憶
見たり聞いたりしたものが1~2秒ほど記憶される。記憶していることは意識されない。 - 短期記憶
数十秒以内の記憶。記憶容量はマジックナンバーと言われる7文字程度。 - 長期記憶
長時間持続する記憶。場合によっては一生記憶され続ける。
長期記憶には陳述記憶と非陳述記憶があります。
・陳述記憶とは説明できる記憶のこと。経験。
・非陳述記憶はなぜそうなったのか具体的に説明できない記憶のこと。
自転車を乗れるようになるのはその技術をマスターして記憶したからですが、その方法を言語化出来ません。
急激な感情の動きが記憶の強さに影響する
中世には、重要な出来事は文字を使わないで記録することがあったそうです。文字で残しても読めない人にとっては何の価値もないことから、文字で記録を残す習慣がなかったようです。
それでは、どんな方法で記録したのか。土地取引の事実を記録したいとすると、まず、7歳くらいの子どもを選びます。そして、取引の内容を丁寧に教えます。それが理解できたら子供を川の中に投げ込みます。そうすると、その子どもの記憶は一生保持されると考えらていました。
これはストレスホルモンが記憶を強める働きを利用しています。恐怖の体験を避ける能力や喜びの体験を記憶することは、種が生き残るために必要だったのです。*1
これを利用すれば学習に役立てられるように思います。
- 例えば、学習した後にバンジージャンプをすれば、川の中に投げ込まれた子どもと同じような効果があるはず(やりませんが)。
- 最近、私は年号をひとつ覚えました。ヴントが1879年にライプツィヒ大学に研究室を創設したのが心理学の始まりと言われますが日本でいうといつころなのか、それが気になったからです。
明治元年は1868年。戊辰戦争は「銃は六発」。会津の兵士が血なまぐさく銃で撃たれるシーンをイメージしました。 - 「記憶の宮殿」を使って難解なアラビア語アルファベットを覚える(後)
「記憶の宮殿」を使って記憶するのは効果があります。何かを関連付けて記憶するとき、なるべく感情イメージするというのがありました。 -
ジョシュア・フォア: 誰でもできる記憶術 | TED Talk
ジョシュア・フォアはヌーディストをいっぱいイメージしています。
こんな変な手法を使わなくても、興味をもって集中して学習すれば、ホルモンが分泌されるかも知れません。
嫌な記憶に限ってよく思い出してしまう
昔の嫌なことを思い出すことがあります。嫌なことに限ってはっきりと覚えているのはストレスホルモンが分泌されたことから、強い記憶が出来てしまったからです。
ストレスホルモンの影響が強すぎると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になってしまう場合があります。思い出したくないのにフラッシュのように嫌な記憶が思い出され、そのストレスで記憶がさらに強くなってしまいます。
嫌なことは思い出したくありません。強い記憶が良いとは限らないのです。
どんな仮説の実験により記憶の謎を解明してきたのか
この本には記憶に関する歴史的実験が多数紹介されています。その中でも興味深かったのが、ネズミに薬物を注射して迷路を学習させると、脱出して餌までたどり着く時間が早くなるというものです。
この本の著者・マッガウは大学院生のときにこの論文に興味を持ちます。
しかし、この実験では薬物によって迷路を記憶する能力が高くなったと証明しているのではありません。薬物によって感覚が鋭くなり、迷路を選択する判断力が強くなったり、ネズミの運動能力が高まっているのかも知れません。
そこで、ネズミに迷路を学習させた後に薬物を注射することを思いつきます。マッガウは指導教官に実験テーマしようと相談します。しかし、「それはひどい思いつきだから、忘れてしまいなさい」と言われます。
そこで、指導教官が研究休暇で留守になったときに実験をします。結果は仮説どおり、迷路を学習させた後に薬物を注射しても、迷路を脱出して餌までたどり着く時間は早くなったのです。
マッガウはこれだけでも満足しません。迷路脱出を早くしていると疑われる他の要因を排除しなければならないのです。
実験をする人の先入観が入っているかも知れません。それを取り除くために薬物のボトルには記号しか書かないようにしました。
また、薬物が報酬となる可能性もあります。訓練後に塩水を注射されるより、薬物を注射される方が快楽があって、それを目当てに張り切ってしまうのかも知れません。それは後発の研究でけいれんを起こす薬が使われ、その可能性は排除されました。
薬物は記憶を高めるのです。
「ネズミに迷路を学習させた後に薬物を注射する」というアイディアが素晴らしい。
今では記憶は学習した直後よりも、翌日の方が強くなるのは分かっています。指導教官が「ひどい思いつき」と言ったのは、記憶は学習しているときに作られると考えるのが常識だったからだと思います。
薬物がスポーツのドーピングのような役目をしている可能性を排除し、報酬として機能している可能性を排除する。薬物が本当に記憶を強くしているのかと、他の要因を排除していく様子は推理小説の犯人探しのようでした。
「記憶力アップサプリ」で検索するといろんなサイトがヒットします。効果は確認されているのでしょうか。
子どもの食べ物好き嫌いは親の責任ではない
今まで知らなかった意外なことを知りました。それは「食物嫌悪学習」というもので、むかついたときに食べたものの味や匂いのするのものは、それ以後は食べなくなるというのです。
ある病院で、放射線治療を受けた子どもにご褒美としてアイスクリームを食べさせていたそうです。しかし、何回か治療をしているうちにアイスクリームを食べなくなってしまったそうです。子供はアイスクリームが嫌いになったのです。
放射線治療を受けると体調が悪くなります。その原因がアイスクリームにあると脳が勘違いして覚えてしまったのです。
孫は小さいときから身体の弱い子どもでした。そして、嫌いな食べ物がかなりあります。身体の弱い子供に限って好き嫌いがあって、健康は子供は好き嫌いなく食べる。原因はこれなんだと思いました。
子どもに食べ物の好き嫌いがあるのは親の責任だと考えていたのですが、子どもの健康と関係しているようです。
食べ物の好き嫌いをなくすには、このことを踏まえる必要がありますね。
まず、体調が良くて気分爽快なときに食べさせる。これが最低条件でしょう。私は子どのとき、チーズが嫌いでした。嫌いなものでも食べ続けると慣れて好きになりましたから、好き嫌いは治るかも知れません。
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積読になっている本
*1:情動 - 脳科学辞典 情動が影響を及ぼすのがわかります。