プロジェクトX 挑戦者たち 町工場 世界へ翔ぶ ?トランジスタラジオ・営業マンの闘い? [DVD]
- 作者: ドキュメンタリー
- 出版社/メーカー: NHKエンタープライズ
- 発売日: 2010/12/24
- メディア: DVD
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目次
この「プロジェクトX」おかしくね?
4月13・14日と埼玉学習センターで、面接授業「世界のユダヤエリート」がありました。講師は 獨協大学・佐藤唯行教授。
ユダヤ人に関する多くの論文・著作があり、オピニオン・考察も発表されています。
面接授業はこの本をテキストとして行われました。
この授業で日本が多くのユダヤ人にお世話になっていることを知りました。
まず、私がブログに書いていたベアテ・シロタ・ゴードンさんがユダヤ人でした。
憲法草案をまとめた彼女の上司「チャールズ・L・ケーディス」もユダヤ人。
「安かろう、悪かろう」と言われた日本の車、カメラ、家電製品を売ってくれたのも、アメリカのユダヤ人でした。メジャーな車、家電はWASP(White Anglo-Saxon Protestant)に押さえられ、ユダヤ人には売るものがなかったからです。
アメリカに輸出された日本製品の40%は、ユダヤ系の業者が取り扱っているとも言われています。
日本製品が売れるようになると、ユダヤ人と日本人の関係をやっかみを込めて、「J.J Relation」、「Jew Japanese Relation」と呼ぶようになりました。日本とユダヤの弱者連合です。
ソニーのトランジスタラジオを売ってくれたのもユダヤ人でした。
拠点となった米子会社、ソニー・アメリカで陣頭指揮する盛田が採用した現地幹部の殆ど全てが、実はユダヤ人だった。きっかけは、1953年の初渡米だった。右も左も分からぬ盛田の前にアドルフ・グロスというユダヤ商人が現れ、ソニーのトランジスタラジオが気に入ったので米市場での販売を助けてやろう、と申し出たのである。
(『日本の恩人 ユダヤ人』・「日系ユダヤ人」、ソニーの盛田昭夫)
当時30代初めだった盛田は、60歳近いグロスのことを親しみを込めて「アメリカのお父さん」と呼んだそうです。
そうだったのか・・・。
放送大学には「プロジェクトX 挑戦者たち」のDVD-BOXが5巻揃っています。ソニーのトランジスタラジオ営業マンの話もあったはず。それで、このトップにあるDVDを見ることにしました。
DVDを見て「あれ?」と思うところがありました。
- ソニーのトランジスタラジオを売ってくれたというアドルフ・グロスが全く登場しません。それどころか、アメリカでソニーの営業マンが活躍した話がひとつも登場しないのです。
- トランジスタラジオを売って苦労したのはドイツの話。
それも、アルバイトに学生を12人雇い、サクラとしてトランジスタラジオ買ってもらうという作戦を繰り返したのです。
これって、詐欺っぽくないですか?
それを自慢げに話し、褒めたたえるNHK。
私は、この2点を疑問に感じました。以下、この2点をについて書いてみます。
アメリカで販売に成功したエピソードがない
この番組は2000年12月12日に放送されたもの。簡単にあらすじを紹介します。
- 40年前、それは粗悪品の代名詞だった。置かれていたのは投げ売りセールのコーナー。ブラウスは1ドル、使い捨ての服と言われた。自動車はハイウェイを走ったとたんにエンストした。
粗悪品なら日本製と笑われていた。 - 盛田昭夫(34歳)は「東京通信工業」を立ち上げ、トランジスタ・ラジオの開発に成功する。電池が長持ちし、音が良い。
「海外に売ろう」。日本名を捨てて「ソニー」とした。 - 盛田はニューヨークに飛び、卸売り業者をしらみつぶしにあたる。
大手時計メーカーの「ブローバ」が話を聞いてくれ、ラジオの性能検査をする。
「完璧だ。10万台買おう。ただし、『ブローバ』の名前で売る」
無名の「ソニー」では売れないと判断されたのだ。 - マンハッタンのはずれの倉庫街に事務所を開きます。
「これさえあれば、家のラジオにしばられていいるあなたの暮らしが変わります」 - ここで話はヨーロッパに飛びます。(これは別に話します)
- ソニーのトランジスタ・ラジオは飛ぶように売れますが、問題が発生します。
故障が頻発するのです。
日本から技術者が派遣され、修理に明け暮れます。
日本では問題ないのに、なぜ、アメリカでは故障が頻発するのか・・・?
技術者が悩んでいると、他メーカの技術者も同じ問題に苦しんでいることを知ります。
そして、「パナマ運河」を通過するとき、倉庫が高温多湿になるのが原因だと気づきます。故障はコンデンサの劣化によるもの。コンデンサには銀を使っていました。銀は温度が高いと変質してしまうのです。
日本にコンデンサの改良を提案。新しいトランジスタ・ラジオが到着すると営業マンが「改良しました」とアピールします。 - ここでまた、ヨーロッパの話になります。
- 昭和37年10月。五番街にソニーのショールームがオープンします。
盛田は「日の丸を掲げよう」と言います。
それを見て、同じように苦労していた日本の営業マンも涙した。
アメリカで販売に苦労したエピソードがないのには違和感があります。営業マンの話なのに、アメリカでは最初から飛ぶように売れている。
「トランジスタラジオ・営業マンの闘い」なのにアメリカでの活躍がありません。
盛田が「アメリカのお父さん」と慕ったアドルフ・グロスに触れるのを避けた結果なのでしょうか。変な流れの話です。
「サクラ作戦」って詐欺に近くない?
前段は話の流れが変というだけですが、ヨーロッパの話はモラルの問題です。
DVDに「起死回生のサクラ作戦」とあります。映画を面白くするために登場するならともかく、実在の人物を描く「プロジェクトX」で「サクラ作戦」を称えるのはどうかと思いました。
ヨーロッパ方面の「あらすじ」を紹介します。
- ドイツは技術の高い国。強力なラジオメーカが多数ひしめいていた。
- 1年間セールスを続けても、トランジスタラジオは1台も売れなかった。
ヨーロッパの責任者は倒れてしまい、帰国する。 - 前任者の上司がドイツに赴任し、各国に売り込みをする。
ある日、ヘニング・メルヒャーという28歳の男が訪ねてくる。
問題はイメージ。ドイツ人はプライドが高い。高級店だけに絞って売るべきだという。
そして、「サクラ作戦」を提案する。 - ターゲットはハンブルグの「スタインウェイ」。世界一の高級ピアノメーカーです。
「スタインウェイの一般的な価格について」を見ると、高いコンサート用グランドピアノが2200万円半ばから1400万円くらい。家庭向けが1400万円台から900万円。アップライトでも600万円もします。 - サクラ作戦
仕入れてもらえないので、お金を出してトランジスタラジオを置いてもらう。
学生のアルバイト12人を雇い。
「ソニーのトランジスタラジオは音がいい」と言って、買ってもらう。
1週間後に行くと「スタインウェイ」は「仕入れさせてください」と言った。
次々と「サクラ作戦」を実行。 - クリスマスを前にソニーは新聞広告を打ちます。
「あなたのクリスマス・プレゼントにソニーのラジオをどうぞ」
そして、ソニーのトランジスタラジオを売っている店のリストを掲載します。
結果は大成功。
結果として、ソニーのトランジスタラジオが良かったから、売れたのかも知れませんが、「サクラ作戦」は自慢すべきものなのでしょうか。
「サクラ」とは何か。
本来は、江戸時代に芝居小屋で歌舞伎を無料で見させてもらうかわりに、芝居の見せ場で役者に掛声を掛けたりしてその場を盛り上げること、またはそれを行う者のことを『サクラ』といった。桜の花見はそもそもタダ見であること、そしてその場限りの盛り上がりを『桜がパッと咲いてサッと散ること』にかけたものだという。
(「サクラ (おとり) - Wikipedia」より)
Wikipedia にはいろんなサクラの例が紹介され、「法的評価」として次のように言います。
サクラを使い、顧客に価値判断を誤らせて商品を販売すると、詐欺罪が成立するというのが確立した判例である。
こちらに「詐欺罪」の成立要件が紹介されています。
詐欺罪が成立する4つの要件
- 欺罔(ぎもう)人を欺き騙すことを言います。
- 錯誤 詐欺のターゲットが事実でないことを事実と誤信すること。
- 交付行為 自らの意思で詐欺師に財産を渡す。
- 財産転移 財産交付により詐欺師が利益を得る。
仕入れを決断させるのが、「財産を渡す」ことになるのか・・・「スタインウェイ」の売り場は相当価値がありそうですが・・・。
ドイツの法律ではどうなのか、不明な点もありますが、結果として、トランジスタラジオが売れたことから、「サクラ作戦」は問題にされなかったのだと思います。
ただ、「サクラ作戦」を褒めたたえるNHKには違和感が残りました。
そして、営業マンの物語なのに、重要な「サクラ作戦」は訪ねて来た外部の人間によるものだというのも気になりました。