目次
- この映画の満足度
- はっきり言って詐欺師みたいな人も多い
- ピアノ調律という職人の世界
- 一番大切なピアノの音
- ピアノ曲・北海道の自然・水の映像が美しい
- 青年がピアノ調律師として成長するドラマ
- そうとう機械いじりとか、ピアノが好きじゃないと無理
- まとめ
この映画の満足度
書き終えてみると、ピアノ調律の話が多くなってしまいました。映画の魅力について記述が目立たちません。そこで、最初に映画の満足度を表記します。
満足度:★★★★☆
はっきり言って詐欺師みたいな人も多い
『羊と鋼の森』を見てきました。『万引き家族』が話題なのにこちらを観たのは、ピアノ調律という仕事に興味が湧いたから。
プロの調律師にツイッターで、「『羊と鋼の森』という予告をやっていたよ」と話すと、そこから話が広がりピアノ調律の奥深さを知ることになりました。
きっかけとなったツイッターの会話を紹介します(許可あり)。
- 「今映画を見たら、予告で調律師の映画『羊と鋼の森』をやってた。どんな映画なんだろうね」
- 「本屋大賞とった話題作ですよ!私が習った先生が技術指導してます。絶対見に行く」
- 「やっぱり知っていたか。ピアノ調律師の世界って、分かんないんだけど、腕の差とかあるものなのかな」
- 「めっちゃあります!!! はっきり言って詐欺師みたいな人も多い」
- 「そりゃまた。素人は良く分からないから騙されるのか。調律の良し悪しくらい分かりそうだと思ったがそうでもないのかな」
- 「そういう人は口で調律してる、と言っております。口がうまい」
そして、彼女は漫画「ピアノのムシ」を紹介してくれました。
- 「奥が深いんですね。良く作ればそれで良いのかと思ってました」
- 「手入れ次第です。いくら良いピアノでも??」
ピアノ調律は面白そう。今年高校生になった孫にこの映画を見せたいと思いました。彼は音に敏感なタイプ。もし、他人よりも耳が優れているとしたら、それで勝負した方が有利に戦えます。ピアノ調律に興味が湧かなかったとしても、今より広い世界が見えるようになるのではないかと目論んだのです。
その前に一人で見る。そして、よかったら孫を連れて行こうと計画したのでした。
映画を観た結果はどうだったか。とても良い映画でした。
- ピアノ調律師として一人前になる感動的なドラマ。
- 私の知りたかったピアノ調律の奥深い世界を知ることが出来ます。
- 多くのピアノ曲が流れ、美しい北海道の自然や音楽をイメージする水の映像。これだけでも十分楽しめます。
この三つが楽しめる映画です。
ピアノ調律という職人の世界
原作は2016年に本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』。 ピアノの調律に魅せられた青年が調律師として成長する姿が描かれます。
この映画を観て分かったのは、私がピアノ調律をなめていたということ。ピアノ調律はギターチューニング程度、測定器を使えば、誰にでも出来ると考えていたのです。それがとんでもないこと、無知な私の誤解だと知りました。
Wikipediaとプロの調律師から聞いた付け焼刃の知識で調律を説明してみます。
- 整調
ピアノには1つの鍵盤に20~30にの調整箇所があります。88の鍵盤がありますから、それらを全てを均一に整えなくてはなりません。
(wikipedia「ピアノ:ダブル・エスケープメントのイギリス式アクション概念図」より)
なんですか、この複雑な部品は。びっくりですよ。
①の鍵盤が押し下げら、(15)のダンパーが上がり、同時に⑩のハンマーで弦を叩く。鍵盤をもどすとダンパーも戻る。これが基本の動きです。これらの部品は劣化もしますし、温度や湿度で状態が変化するでしょう。これが88個。それも太くて長い弦を叩くハンマーは大きくて、短くて細い弦を叩くハンマーは小さい。その感触のバランスを整えるのです。 - 整音
弦を叩くフェルトを調整する作業です。映画では紙ヤスリで削ったり、針を刺したりしていました。
フェルトに針を刺す理由が分からなかったので、調律師に聞いてみました。
「フェルトに針は、ピアノは使用によって、ハンマーが叩かれ弦のあとがついて、通常音が固くなっていきます。その固くなったハンマーをほぐして柔らかい音になるように、ピッカーという道具で針刺ししています。弾力をつける?という感じ?」 - 調律
音程を整える作業ですね。チューニングハンマーで弦を張る強さを調整します。
私が知っていたピアノ調律はここだけだったのです。
この他にも私の知らない作業が映画に登場しました。そこで、調律師に質問しました。
- 「有名な演奏家のピアノを三浦友和さんが調律するとき、ピアノの下に潜り込んで、キャスターの向きを変えるシーンがありました。あれは何?」
- 「キャスターの向き変えると、ピアノのたわみ具合が変わって、響きが変わるんですよ〜」
- 「あ、それだ!」
それと、ラストに三浦友和さんが「ダンパーがいっせいにおりているかどうかチェック」と言います。これは、うまくいったように見えても、三浦友和さんから見ればまだチェックすべきところはあるぞということのようです。
こんな情報も見つけました。
- 【ピアノ修理】 調律だけでは不十分! 心地よいタッチになるための3大要素 (1) - ピアノ調律.net
- 【ピアノ修理】 調律だけでは不十分! 心地よいタッチになるための3大要素 (2) - ピアノ調律.net
- 【ピアノ修理】 調律だけでは不十分! 心地よいタッチになるための3大要素 (3) - ピアノ調律.net
いかがですか? ピアノ調律という職人の世界。
これらを知れば、さらに『羊と鋼の森』を楽しんで観ることが出来ます。
一番大切なピアノの音
ファースト・シーンは雪の降る北海道の山。どう生きてよいか、まだ進路の決まっていない 山﨑賢人さんが演ずる外村。教師から、ピアノ調律師を講堂に案内するように頼まれます。
三浦友和さん演ずる調律師が、調律の作業を始めます。案内を終えた外村は講堂を出ようとします。
そこに「ビーン!」と響くピアノの音。
外村は振り返ります。ピアノに興味が湧いたのです。作業をしている三浦友和さんに近づいて、その様子を見つめます。三浦友和さんが調律の説明をする。
ピアノ調律との出合いから物語が始まるのに、この音に振り返らなかったら、物語は始まらない。この音で進路の決まっていない高校生がピアノ調律師になります。だから、一番大切なピアノの音のはずです。
もし、この音を観客が聴いて、外村の気持ちが理解できなかったら、映画は失敗・・・。
それが見事に響きます。
ピアノ曲・北海道の自然・水の映像が美しい
映画には、音、映像のイメージなど、幻想的なカットが入ります。
北海道の奥深い緑の森のシーン。樹木の横たわる透明な沼。
ピアノを弾くシーン。鍵盤の下から演奏をしている女性を撮影したようねイメージのカットです。鍵盤の代りに水中から撮影したイメージ。ピアノを弾く指の動きが水面をはじいて水紋が広がります。
クライマックス。ピアノを演奏する佐倉和音が成長する、自分の殻を打ち破るイメージ、そんなものを表現するために、水中でうずくまっていた佐倉和音が水面の光を求めて浮上するシーンがあります。
原作は読んでいないのですけれども、Wikipediaの書評をみますと、「自然の描写や音楽の表現がとてもきれいで、美しい」という表現があります。小説の自然描写、音楽の美しさを映画的に表現しようとしたのではないかと想像しました。
映画は音と光の芸術。橋本光二郎監督はそれをフル活用しています。
豊富なピアノ曲も魅力です。
- アーティスト: 辻井伸行、菊池洋子、江崎昌子、外山啓介、山本貴志、及川浩治
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それを女優の上白石萌音さんと上白石萌歌さんが演奏するシーンが何度もあります。本当にやっていないというのは分かってしまうのですが、指、身体の動きが見事でした。
- 水の戯れ
- きらきら星変奏曲
- 月の光
- 練習曲集 作品25 第9番≪蝶々≫
- 亡き王女のためのパヴァーヌ
- 小犬のワルツ
- ピアノ・ソナタ第14番≪月光≫:第1楽章
- ピアノ・ソナタ第23番≪熱情≫:第1楽章
- ピアノ・ソナタ第3番:第4楽章
青年がピアノ調律師として成長するドラマ
高校生姉妹から「大変なんです」と呼び止められ、ピアノ鍵盤の調整をする外村。
音が変だという高校生姉妹に言われて調律をしますが、かえってバランスを壊してしまいます。汗だくになって作業をする外村。自分では手に負えなく先輩に助けを求めます。
そしたら、知り合いの調律師さんも同じ経験をしているようです。
- 「辛過ぎる〜ていうか、身におぼえがあり過ぎる🤣
どんなに不安でも堂々としとけとよく先輩に言われました🤣
冷や汗はいまでもよくかくし、今はないけど昔は先輩に来てもらってた🤣」 - 「それ、最初に先輩に言われます。自信なさそうにするなって。そんな人頼まないだろって。
西郷どんの鈴木亮平さんが先輩なんだけど、芝居が上手い。
ドラムを叩いて歌うシーンが本物っぽい!
それと、登場するピアノを弾く人がみんな凄く上手い!
音楽と映像が美しいです。義母を連れてまた行こう」 - 「担当変更して!も、みんな少なからず経験あり🤣
調律が合わない、も辛いけど人間性で断られるのはもっと辛い😭
けっこう色んな想い持って一台一台接してるんですよ〜 人と人の信頼関係でもありますし」
外村はノートにメモをしながら、先輩である柳の話を聞きます。
「もう少しだけ、明るい感じの音になりますか?」
こんな要望にも調律師は応えます。ジャズバーのピアニストの注文はさらに難しい。
それでも先輩の柳は応えていきます。
クライアントの高校生姉妹にドラマがあり、それに外村も絡んでいきます。みんなが成長していくドラマには清々しさがありました。
そうとう機械いじりとか、ピアノが好きじゃないと無理
この映画見て、調律師になりたくなる人が結構いるんじゃないかと思いました。
- 「あの映画見て調律師になりたくなる人が結構いると思う。
スリランカに行ったとき、ガイドさんが「おしん」を見て日本語学びたくなったって言ってました。そう言うひといっぱいいますよ」 - 「調律師になりたいってよく言われるけど、大変だからやめろって言ってます
そうとう機械いじりとか、ピアノが好きじゃないと無理」 - 「辞めたいって思ったことある?」
- 「う〜ん、無いかも」
- 「もっと若かったらやってみたい。ピアノ弾けないけど」
- 「ピアノがどんなに上手く弾けても向いてない人もいるし、演奏とは全く別。
割と向いてる人が多いのは、ガレージでしょっちゅう車改造したりしてる人かな〜」 - 「なるほどね。ワタシ、一人でコツコツやるの好きです。団体行動は苦手」
- 「私も〜」
調律師さんは幕張に住んでいて、家も近いはずなんだけど会ったことはありません。一度、三人でオフ会をやろうかと決まりかけたのですけれどもお流れになりました。いつか会うのでしょうか。
まとめ
ツイッターで調律師に、『羊と鋼の森』という予告をやっていたよ、と話したら、ピアノ調律の奥深さを知ることになりました。それで、調律の世界を知りたくて、映画を観ることになりました。
映画は、ピアノ調律師として成長するドラマ、ピアノ調律の奥深い世界、多くのピアノ曲と美しい北海道の自然や音楽をイメージする映像など楽しめる要素がたっぷりでした。