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『人生劇場 飛車角』はどんな映画か
高倉健さんと言えば「仁侠映画」「ヤクザ映画」。そのシリーズが始まる切っ掛けとなったのが『人生劇場 飛車角』(1963年)です。
原作は尾崎士郎の『人生劇場・残侠篇』。『人生劇場』は、尾崎士郎をモデルとした自伝的小説ですけれども、「残侠篇」 は主人公の青成瓢吉がほとんど登場せず、鶴田浩二さん演ずる侠客・飛車角が主役です。
飛車角が人を殺して逃げこむのが青成瓢吉の部屋。そこには瓢吉の父を慕う「吉良常」がいてかくまう。瓢吉との接点はそれだけです。
私がススメるこの映画の見どころ
この映画の見どころは次の三つ。
- 「おとよ」と「飛車角」の別れのシーン。
遊女のおとよ(佐久間良子さん)と飛車角(鶴田浩二さん)は、駆け落ちし、小金親分にかくまわれて住んでいます。
小金一家が喧嘩になり、一宿一飯の義理がある飛車角は相手の親分を刺し殺し、自首することになります。
別れたくない「おとよ」と「刑が終わるまで待ってくれ」と言う「飛車角」。
延々と佐久間良子さんが飛車角を引き留めます。
義理に生きる「飛車角」と別れたくない情熱的な「おとよ」。二人は熱くぶつかり合います。
長い。4分30秒くらいあります。佐久間良子さんが息も切れるほどに「飛車角」への思いを語ります。
佐久間良子さんの熱演を見てください。 - 高倉健さん演ずる「宮川」が「おとよ」に惚れてマメに口説く。
高倉健さんと言えば不器用で無口でストイック。自分から女性に好意を寄せるイメージがありません。
でも、この映画では健さんが行動的なのには驚きました。
逃げる「おとよ」を車引きの高倉健さんが助けます。「おとよ」は健さんの部屋で熱を出して寝込んでしまい、健さんが甲斐甲斐しく看病をするのです。
おかゆを作って食べさせようとしたり。不器用で無口なイメージの健さんと違って、とてもマメです。
やがて二人は結ばれます。 - 「宮川」は「おとよ」が兄貴分「飛車角」の情婦だと知る。
飛車角は出所し、迎えに出た吉良常はおとよの事情を話します。
宮川(健さん)はどうにでもしてくれと両手を差し出します。
兄貴分の女に手を出せば指を摘めるのがルール。
あれほど刑務所の中で思い続けた「おとよ」ですが、飛車角(鶴田浩二)は宮川を許します。
飛車角は辛い・・・。
小金親分が殺された相手を知った宮川(健さん)がひとり殴り込み、殺されたことを知った飛車角が殴り込みます。
ヤクザの殺し合いのシーンが多いのですが、「飛車角」、「おとよ」、「宮川」の大きな三角関係がドラマを支えています。
多弁でマメな高倉健さんにも注目しましょう。
「義理」と「人情」ではどちらが大切か
遊女とヤクザが惚れ合って、逃げて親分のかくまってもらう。普通、そんなドラマチックな人生はない訳で、そんな境遇にどっぷりと浸って観客は映画を楽しみます。
映画の中では、一宿一飯の義理から敵対する親分を刺し、「飛車角」と「おとよ」が別れなければならなかったことから、悲劇が始まります。
「飛車角」は「おとよ」が言うように自首しないで逃げる訳にはいかなかったのか。
出入りで義理が果たせ、男になることが出来たという「飛車角」。
そんなに男になることが大事なのか。
現実だったとしたら、私はどちらを選ぶかというと「人情」を選ぶと思います。
しかし、映画を観る私はすっかり共感していますから、私の心の中には何があるのでしょう。
武士道なのでしょうか、儒教なのでしょうか。
西洋の人はどうなのでしょうか。
それを知りたいと思ったのでした。