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私たちのモラルはどこから来るのか
私たちにはモラルがあり、正義があります。それはどこから来るんでしょう?
親の躾や教育、勧善懲悪ドラマや漫画などで私のモラルは構築された。私は漠然とそう考えていました。
埼玉学習SC「感情の哲学 」を履修したり、閉講科目「感情の心理学」も聞きましたが、もうひとつピンと来ません。
赤ちゃんは、他人を妨害するよりも、助けることを好む
2018年度に「乳幼児心理学」を学んだときに興味深いことを知りました。
Yale大学 Kiley Hamlinの研究、この動画です。
- キャラクター「〇」は坂を昇ろうとしている。
- 「▢」は押して坂を昇ろうとするのを助けようとする
- 逆に「△」は邪魔をしようとする。
- 乳児に「▢」と「△」を提示すると先に「▢」に触れる。
ヒトは生まれながらにして、生存戦略として敵と味方を見分ける能力を持っているのです。だから、私たちは自分に不都合な人に怒りを爆発させます。
- 勧善懲悪のドラマに痛快さを感じます。
- 席を譲らないで優先席で寝たふりをしている人に腹を立てます。
- 国民の予算なのに自分の選挙運動に使っている「桜を見る会」に怒りを爆発させる訳です。
では、動物はどうなのでしょうか?
「比較認知科学」 を履修して分かったのは、私たちの心はヒトが動物として進化してきた結果なのだと言うことでした。
それらの証拠を示すひとつひとつの観察、実験が面白かった。それと、その実験方法が面白いのです。
この科目は動物の知性や意識、内省がどのようなものかを研究します。しかし、動物は言葉を話せません。人間向けのIQテストもできません。
知性を調べるにも、実験を工夫しないと確認することができません。そのための工夫が素晴らしくて面白かった。
どんなところが面白かったかを具体的に書いていきます。
「オペラント条件づけ」と「強化スケジュール」
私たちも動物も、環境に適応するように学習して変化しながら生きています。
オペラント条件づけ
例えば、レバーを押せば餌が出る、という経験を繰り返すことで、自発的にレバーを押すようになる行動をオペラント条件づけという。(「コトバンク・ナビゲート ビジネス基本用語集の解説」より)
似た用語に「レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)」があります。
- Operant conditioning:オペラント条件づけ。
Operantー[形]作用する、自発的な - Classical conditioning:古典的条件づけ・レスポンデント条件づけ)
respondentー[形]応答する、反応する
オペラント(自発的行動)は意思で止められますが、パブロフの犬で有名なレスポンデント条件づけは意思では止めらません。
- 強化刺激
反応が強められ、罰で反応が弱まり、消去で条件づけを始める以前の強さに戻ります。 - 強化スケジュール
スケジュールによって、反応の強さが違ったり、消去されにくかったりします。固定間隔強化、変動比率強化、固定比率強化、変動間隔強化があります。
面白い例を紹介してみます。
【変動比率強化】
パチンコやスロットマシンのギャンブルが例として挙げられています。
ある確率で強化されるが、それがいつ強化されるか分からない。これは消去されにくく、消去されても反応が強化されると、すっかり元に戻ってしまいます。
子どもが駄々をこねる続けると根負けして買ってやるのは変動比率強化。
子どものわがままは親が作っている。
【迷信行動】
どのように迷信行動が生まれるか、ハトを使って実験しています。
スキナーはハトを実験箱に入れ、15秒おきに餌を与えました。
その結果 → ただ待てば良いのですが、グルグルまわるもの、床をつつくもの、とハトは色々な行動をするようになりました。
こんな発想をするなんて、スキナー恐るべし。
動物や乳幼児の実験はどういう実験で測定するか、そのアイディアが勝負です。
日の丸や旭日旗の好き嫌いも学習の結果なのでは?
「日の丸・旭日旗」を見る → 嫌なことが起きた
「日の丸・旭日旗」を見る → 気分がよい(オリンピックの表彰)
- 沖縄県の人は日の丸や旭日旗にナーバス?
沖縄では県民の1/4が沖縄戦でなくなっています。
日の丸や旭日旗は戦闘と結びついて嫌なイメージが浮かびやすいと思います。 - 旭日旗
自衛隊の人は、毎日見慣れて(単純接触効果)が好きかもしれません。
韓国の人は植民地化された屈辱とイメージが連動していると思われ、旭日旗が嫌いなのも納得できます。 - 街宣車
日の丸、旭日旗を掲げ、軍歌を流して街を走ります。
彼らは日の丸や旭日旗を大切にしろといいますが、街宣車には恐怖と結びついてしまって逆効果なのでは?
食べ物が嫌いになるのはなぜだろう
食物嫌悪学習
私が大好きな食べ物なのに、それを嫌いだという人がいて、意外に思うことがあります。
- ラットに甘味のついた水を飲ませた後に、薬物を注射して体調を悪化させると、味付け水を飲む量が激減します。
ガルシアら(Garcia, Ervin, & Koelling, 1966) - 放射線治療をしている子どもにご褒美にアイスクリームを食べさせていたら、アイスクリームが嫌いになった「乳幼児心理学」
現実には放射線で体調が悪くなったが、アイスクリームが原因だと誤認。 - 高倉健さんは子どものときに病弱で、お母さんが心配して毎日のようにウナギを食べさせた。それでウナギが嫌いなったそうです。これも同じような原因と思われます。
嫌いなものでも食べ続けると好きになる
- 私が初めてチーズを食べたのは給食のときでした。
そのときは「なんだ、この石鹸みたいな味は」と思いました。何日か置いて干からびさせると食べられましたが、まずい食べ物には違いありませんでした。家庭でチーズを食べるという習慣がなかったのです。
それが気が付けばいつの間にかチーズが好きになっていました。腐ったような嫌な臭いでも、食べ続けることで身体に害がないと学習したのかもしれません。 - 初めて「ウド」を食べたときも、なぜ大人は、こんなものをうまいというのか、それが理解できませんでした。しかし、いつの間にか好きになりました。
鳥は頭が悪いからみんな忘れるんだよね(間違い)
山奥の村に住んでいるころ、畑でカラスが木の実を埋めているのを見ました。鳥は頭が悪いからみんな忘れるんだよね、って思っていたのですが、それはとんでもない間違いでした。
- アメリカカケスは最大6000個、地面に穴を掘って松の実などを埋め、後日掘り出して食べる。
- マツカケスは松の実を25,000個貯蔵する。
- ハイイロホシガラスは6、000~8,000の地面の穴に、22,000~33,000個の松の実を貯蔵し、掘り出して食べる。
鳥の記憶力もすごいですが、どうやって数えたのでしょう。
鳥の個体を特定するための目印をつけ、地面に穴を掘って埋めるのを観測する。掘り返して松の実を数える。そこまではできそうです。
一日中観測しているのか。鳥は埋める場所が決まっているのか。いつからいつまで観測すればいいのか。Googleの入社試験に出題されそうな問題です。
「早く腐ってしまうもの」と「長持ちするもの」の区別
それだけでなくて、「早く腐ってしまうもの」と「長持ちするもの」を区別し、腐るだろうと思われる時間が過ぎると「早く腐ってしまうもの」を食べるのを諦めます。
どんな実験をしたか。
カケスは「ピーナッツ」より「ガの幼虫」が好きです。
- トレーにピーナッツを隠させ、120時間後にガの幼虫を隠させる。その4時間後に取り出せばどちらも食べられる。
- その逆にガの幼虫をトレーに隠させ、120時間後にピーナッツをトレーに隠させるとガは腐ってしまうがピーナッツは食べられる。
- これを一度経験すると、ガの幼虫を先に隠した場合、幼虫を諦めてピーナッツを食べる。
カケスはどこに何を隠したかを記憶しているだけでなく、いつそれを食べるべきかも記憶している。(Clayton & Dickinson 1998)
続きは次回に
まだ、私のモラルは何から生まれたのかという問いに近づいていません。動物の知性、意識や内省はどうようなものかもっと紹介したかったのですが、長くなってきました。
次回はこんなことを書きます。少しは近づくと思います。
- フサオマキザルは援助が出来るのにしない人、忙しくて援助しない人を見分ける。
- 埋めている場所をほかのカラスに目撃されていれば横取りされる可能性がある。
目撃したカラスには隠し変えをして対抗するが、そのカラスがどのカラスであるか認識している必要がある。
そんな面倒くさいことをやっています。 - イヌの推論、カケスの順位を決めるための推論
GitHubに放送大学の授業ノートを公開している人がいます。
「比較認知科学」の授業ノートはこちら。
全体をざっくりと眺めたい人におススメです。