シロッコの青空ぶろぐ

高卒シニアが低学歴コンプレックス脱出のため、放送大学の人間と文化コースで学んでいます。通信制大学で学ぼうとする人を応援したい。学んで成功する人が増えれば、私のやる気も燃えるはず。

不登校や引きこもりの力になるために・原井宏明「方法としての動機づけ面接」

方法としての動機づけ面接―面接によって人と関わるすべての人のために

方法としての動機づけ面接―面接によって人と関わるすべての人のために

 

目次

「動機づけ面接法」のデモが印象に残った

私は不登校や引きこもりの力になれないかと心理学を学び始め、今まで10科目以上心理学の科目を履修したのですが、私の願いに役に立ちそうなものはありませんでした。

今学期は、「認知行動療法」を履修しているのですが、放送授業で紹介された「動機づけ面接法」のデモは興味深いものでした。デモはこんな感じでした。

クライアント・アシスタントの満里奈さん。

将来はハリウッド映画の主演女優を夢見るも、現実として具体的な行動に踏み出せないという悩みを話す。

セラピスト原井宏明先生

二種類のカンセリングをします。

  • 最初は、彼女の夢を叶えるにはどうすれば良いかということについて、指導するイメージです。最終的にハリウッド映画の主演女優を目指す。けれども、それになれなくても、途中のステップで終っても価値があるとか、説得していきます。
  • 次が開かれた質問(はい、いいえでなく。物語を語りやすい)をして、その答を是認、要約した答えを返して、彼女の動機を強化していきます。やっていることは同じでも、答をクライアントの中から引き出して強化しているのです。

「動機づけ面接」はアンビバレントな心理から、クライアントの望む動機を強化していく方法です。

同じ物事に対して、相反する感情を同時に抱くこと。ambivalent。一人の人物について、好意と嫌悪を同時に持つ、などのような場合が該当する。

 (Weblio 辞書「アンビバレント」より。ambivalenceが名詞)

不潔に対する恐怖から手を洗い続け、辞めたいと思うのに辞められない。

「辞めたい」という気持ちと「手を洗いたい」という気持ちと相反する感情から、「辞めたい」という動機をカウンセリングで強化していく。それが「動機づけ面接」です。

この章の参考文献に講義でデモをされた原井宏明の「方法としての動機づけ面接」が載っていました。図書館にあったので借りて読んでみました。

読んでみると、これなら不登校や引きこもりの力になれるのではないかと思いました。不登校の生徒は本当は「学校に行きたい」んだと思います。でも、「行けない」。「行きたい」と「行けない」のアンビバレンス。そこから「行きたい」気持を強化すれば、不登校を解決する一歩に繋がると思ったのです。

どんなところが不登校や引きこもりの力になれると感じたのか、それを書いてみます。 

カウンセリングの手法に科学的根拠がある

「動機づけ面接」が生まれたのは、認知行動療法研究の失敗からでした。

開発者の一人であるウィリアム・R・ミラーは、1976年にニューメキシコ大学の教官に就職し、アルコール依存症に関する研究を始めます。1983年に最初の論文を発表。(p12)

アルコール依存症が、認知行動療法の内容によって治療結果が違うかどうかを調べたのですが、結果は治療法の差はありませんでした。しかし、異常なほど変化する問題飲酒者もいました。

治療法の内容によってではなく、臨床スタイルそのものが影響していると考えて、指示的なスタイルではなく共感を用いるクライエントの抵抗を引き起こすような対決を避ける臨床スタイルを用いると、効果があることが分かったのです。 

さらに、ステファン・ロルニックがアンビバレンスに注目し、「動機づけ面接」が完成されていったのです。

心理学を学び始めて精神分析でトラウマを見つけるとか、箱庭療法とか、一本の木を描くバウムテストとか、いろんな手法があることを知りました。しかし、私が使いこなせるようにはなれないと感じていました。「動機づけ面接」なら、私でも、時間はかかるとしても、身につけることが出来るかも知れません。 

カンセリングでやってはいけないことに納得

「動機づけ面接」を行うにあたって、やってはいけないことが紹介されています。

Gordon による12の落とし穴

具体的に書かれていなかったので検索すると次のような記事がみつかりました。

 例えば、子供が「学校行きたくない」と言ったとします。親はどのように答えるでしょうか。12の例を見てみましょう。(注:これらの例は菅波亮介の創作です。)

 1.命令・指図 「行かなきゃだめです」
 2.脅迫 「皆から取り残されてもいいの?」
 3.説教 「人生にはね、やりたくなくてもやらなきゃいけないことがあるんだよ」
 4.解決法のアドバイス 「お風呂にでもゆっくり入ったら?」
 5.説得・議論 「楽しいこともあるかもしれないし、行った方がよくない?」
 6.非難 「お前、甘えているんだよ」
 7.賞賛・同意 「そうだね、学校なんてつまらないよね」
 8.侮辱 「弱虫だなあ」
 9.診断 「甘えん坊に育てた私が悪かったんだね」
 10.安心させる 「大丈夫大丈夫。そのうち楽しくなるって」
 11.尋問 「ひょっとしていじめられたりしたの?」
 12.ごまかし・皮肉 「あらやだ、この子不登校にでもなったらどうしよう?」

 このように言われたら、さらに心のうちを話したいという気持ちになりにくいのではないでしょうか?

(菅波亮介のエナジー・カウンセリング/トマス・ゴードン「コミュニケーションを阻む12の障害」より)

間違い指摘反射もいけないと書かれています。クライアントが見過ごせな誤解を見つけると、つい一言口を挟んだり、間違いを指摘したくなる。けれども、こうした落とし穴をかわしながらカンセリングをするというのです。

間違いを指摘すれば身構えますし、反発もします。自分の経験から考えても、いい訳を考えたり、素直に間違いを認めることはなかったように思います。共感をして、クライアントの持っているアンビバレンスの矛盾を拡大して、その片方だけを強化してクライアントに変化して貰うのが「動機づけ面接」なのですから。

ネットや国会の議論で、「私が間違っていた考えを改めます」というのは聞いたことがありません。お互い共感する部分を見つけながら議論しないと、意見が一致するのは難しいんだと思います。

「動機づけ面接」の原理

カンセリングでやってはいけないことに納得しました。では、どうするのでしょう。

「動機づけ面接」の原理は次のようなものです。

  1.  共感を表現する:カウンセラーはクライエントを正確に理解しようとし、その内容をクライエントと共有する。
  2. 矛盾を拡大する:クライエントがこうありたいと望む生き方と、現実の生き方の間にある矛盾を探ることで、行動を変えることの価値をクライエント自ら気づくようにカウンセラーが援助する。
  3. 抵抗を手玉に取る:変わりたくないという気持ち,逡巡は病的ではなく、誰にでもある自然なこととカウンセラーが受け入れるようにする。
  4. 自己効力感をサポートする: クライエントの自己決定(ときにはクライエントが現状維持を選ぶときでさえ)を尊重することによって、クライエントが自信を持って、うまく変わっていけるように援助する。

(Wikipedia「動機づけ面接:MIの4つの原理」より) 

「動機づけ面接」の戦略

カウンセリングの落とし穴にはまらないように、次の4つの戦略を使うと言います。

  1. 開かれた質問
    ハイ、イイエや選択から答える閉じられた質問でなく、自由にいろんな答え方が出来る質問をする。
    クライエントは自分でひたすら考え、自分で答え中ればならない。
  2. 是認
    クライエントの話の中で変化に繋がる発言や見方を認めて強めるようにする。
    批判や無視、無分別な称賛・うなづきはいけない。
  3. 聞き返し
    クライエントが述べたことを言葉を選んで返す。
    そのままオウム返し、言い換える、増幅した聞き返し、対偶のように同じ意味だが否定と肯定を入れ替えたりする。
  4. サマライズ
    クライアントの話の全体の中から、相手の言った言葉をまとめて整理し、聞き返す。「花束を作る」と例えられる。

本の中では、「動機づけ面接」のカウンセリング会話例が紹介されています。
クライアントは不潔恐怖症患者で、1日に3、4時間も手を洗ってしまいます。治療として、不快なものにわざと触れる暴露療法を行うのが目標です。便に触って3日間手を洗わない。汚れたままの感覚で過ごすのです。

勿論、本人は乗り気でありません。どんな話し方をするか。

「何で便を触るんですか?」

クライアントが、「今のままで良い」、「できない」、「まぁそのうち」など「維持トーク(曝露療法に進もうとしない)」をする場合。

説明すると罠にはまり、あなたが言う理由には納得出来ない、だからやらないとなってしまいます。「できない」その気持ちを聞き返しています。聞き返しの変形パターンが興味深い。 

簡単に出来るようにはなりそうにない

「動機づけ面接」はカウンセリングの技術として素晴らしいものだと感じました。

だけど、簡単には出来るのようなりそうにありません。

まして、私が力になりたいと思っている不登校や引きこもりの人は、積極的に話さないのではないか、学校に行きたいけど行けないというアンビバレンスがあるとしても、なかなか話してくれないのではないか、そんな心配もあります。

著者の原井先生はいろんな場面で「動機づけ面接」を使って練習している様子が紹介されていました。相当の訓練が必要のようです。

学会発表の質問に「動機づけ面接」

発表を肯定しているように聞き返して確認しながら、矛盾を明らかにしていきます。
DSMから診断したことを強調するよう導きます。DSMには男性の強迫性障害は6〜15歳であり、50歳の男性では矛盾するということはっきりさせます。

「あなたの発表はDSMから診断したと言いながら、DSMの記述と違いますね」とは言わないのです。

家電販売店での「動機づけ面接」

販売員の説明を要約しながら、こちらで補足していく。簡単に説明が終ってしまいます。

不動産セールスの電話を「動機づけ面接」の練習にしてしまう

これには笑ってしまいました。

「いい物件がある」と言えば、「いい物件を私に買って欲しいのですか」と聞き返す。

「そういう訳じゃないです。パンフレットを見て欲しい」というと「パンフレットを見ると買いたくなるのですね」と増幅して聞き返します。

「頭がおかしいんじゃないの」と言われますが、無視して続けると電話セールスは話すことがなくなり、電話を切ってしまいます。

どんなふうにして練習を始めるか

「動機づけ面接」に出会った原井先生は、考案したミラーに連絡してトレーナーのワークショプに参加します。しかし、一人でどう勉強したら良いか分かりません。
そこで、ミラーに聴くと「ビデオを繰り返し見ろ」と言われ、7本のビデオを繰り返し見たそうです。
これは役に立ちそうです。 

放送大学図書館を検索すると「動機づけ面接」の映像資料はなさそうですが、マイクロカウンセリングの映像資料ならあります。

とりあえず、それを見ようと思います。 

マイクロカウンセリングについては詳しく分かっていないのですが、こんな感じのもののようです。

図書館の本を読むというストレス

私は図書館で気に入った本を見つけると、自分で購入して読んでいました。図書館の本には書き込みが出来ないからです。 

自分の本ならば、線を引いて重要だと思われる言葉を赤く囲み、気が付いたことを余白に書き込んだりします。そうすると、あとから見るときにそこだけ見ればいいので楽ちんです。

それが出来ないとかなりのストレスになります。重要と思われる言葉や文章はノートに書き写し、書いてあるページを記入します。これが面倒です。そのノートだけ見ても周りの様子が分かりません。

それでも、図書館から借りて読んだのは期間内に最後まで読むため。自分の本ならば、いつでも読めると途中で別の本を読み始めたり、積読になってしまうことがあるからです。今回は9日間で読了しました。

ただ、この本は一度読めばそれでOKという本ではありません。これから何度も読みかえすことになりあそうです。

図書館で読むか、自分で買うか検討してみます。