シロッコの青空ぶろぐ

高卒シニアが低学歴コンプレックス脱出のため、放送大学の人間と文化コースで学んでいます。通信制大学で学ぼうとする人を応援したい。学んで成功する人が増えれば、私のやる気も燃えるはず。

野上照代さんの本を読もう(1):黒澤映画の舞台裏を知ることで映画を観る視点が変わります

目次

野上照代さんの本を読もう

 野上照代さんをご存じですか。

 黒澤明監督の『羅生門』(1950年)にスクリプターとして参加して以来、全ての黒澤映画に記録・編集・制作助手として長いあいだ黒澤映画に関わってきた方です。

 野上さんの名前は聞いたことがありました。しかし、彼女のことを詳しく知らなかったのですが、今回2冊の本を読むことで多くのことを知ることができました。

 最初に読んだ野上さんの本がこれです。

私の一番好きな黒澤映画は『デルス・ウザーラ』。その全記録と知って読みはじめました。

 639ページもある分厚い本ですが、面白いこと、素晴らしいこと。残り少なくなると、読み終わるのが 残念に思うほどでした。

『黒澤 明 樹海の迷宮: 映画「デルス・ウザーラ」全記録』はどんな本か

この本は大きく以下の構成になっています。目次を省略して紹介します。

発刊によせて フランシス・フォード・コッポラ

読者の皆様へ ユーリー・ソローミン*1

Ⅰ.<特別寄稿>監督の中の魔物 池澤夏樹

Ⅱ.『デルス・ウザーラ』への道 笹井隆男

Ⅲ.『デルス・ウザーラ』撮影日誌 
  野上照代 ヴラジミール・ヴァシーリフ 構成:笹井隆男

Ⅳ.シベリアの激闘を終えて 笹井隆男

Ⅴ.脚本で観る『デルス・ウザーラ』 笹井隆男

あとがき

「Ⅱ」までは順に読みました。

 ここで読む順番を検討したほうがいいと気づき、以下のように読みました。

  • あとがき
    いつもは最初に読むのに読んでませんでした。まず、これを読みました。

  • そして、「Ⅴ.脚本で観る『デルス・ウザーラ』」を読みます。

    これは細部に分かれているので「黒沢監督の付記」が最初。
    この脚本への思い、監督方針、短文による人物のデッサン、服装や食事などがあり、音楽プランを知るのは重要です。
    次に「『デルス・ウザーラ』決定稿」。
    これには「シナリオ注」があります。
    ・欠番:決定稿の見直しで削除されたもの
    ・削除:撮影はしたが技術的問題、フィルム事故で使えなかったもの
    ・カット:撮影はしたが編集でカット
    ・変更:気象条件などで、季節や場所を変えたもの
    ・追加:他のシーンが変更された影響を受けて追加されたもの
    それぞれの理由を詳しく推測しはじめたら、いくら考えても答えがでませんね。
  • そして、第一稿 梗概」「第二稿 梗概」「『デルス・ウザーラ』脚本改訂リスト」とどのように変更されたのかを比べます。
    これも理由までは・・・、
  • 最後が「Ⅲ.『デルス・ウザーラ』撮影日誌」です。
    オーディションやセット、撮影での出来事を決定稿とリンクするようにお互いのページを記入しながら読みました。
    「撮影日誌」には多くのスタッフが登場します。
    大事なところはとりあえず「赤線」を引きメモを書き込みますが、分からなくなります。
    裏表紙に《スタッフ名と役割の一覧表》を作りました。
    付箋を貼ってすぐにめくれるようにしてスタッフを追加して行きます。
  • 最後に「Ⅳ.シベリアの激闘を終えて」。

 読み終わると、DVD『デルス・ウザーラ』を購入して視聴しました。
 ここまですると、以前とは違って映画がよく分かります。

次に読んだ『完本天気待ち: 監督・黒澤明とともに』

 野上さんの本は黒澤映画を知るお宝だ、そう知って次に読んだのがこの本です。

 先に紹介した『黒澤 明 樹海の迷宮: 映画「デルス・ウザーラ」全記録』の著者名には3人が記入されています。

  • 野上照代さん
  • ヴラジミール・ヴァシーリフさん
    ソ連側チーフ助監督。このときの記録をまとめたドキュメンタリー映画を制作しています。
  • 笹井隆男さん
    アートディレクターです。
    この本の著者名は3人ですが、中心になったのは先に示した構成を見れば分かるように笹井隆男さんで、多くを執筆していると思われます。

『デルス・ウザーラ』撮影日誌の参考文献

 撮影日誌は、p100〜404に及ぶ膨大なもので、キャスティングをどう決めたか、ロケーション、黒澤監督とカメラマンの対立など貴重で面白い出来事が描かれています。

 撮影日誌の参考文献をみますと、野上照代さんの私物『デルス・ウザーラ撮影日誌』(全9冊)がベースになり、キネマ旬報の記事、野上さんの書籍、インタビューにより記述されているのが分かります。

 これで野上照代さんの本を読むべきだと思った訳です。

 そして最初に読んだのが『完本天気待ち: 監督・黒澤明とともに』。

この「完本」は『天気待ち』と『もう一度 天気待ち』を合わせて文庫化したものです。

この2冊を読んで分かったこと

 分かったのは、《理想の映画を求めてとてつもない労力をかけられて作られるものだ》ということです。

 このブログでは、この2冊を読めば何が分かるのかをざっくりと紹介できればと思っています。

 世界にも有名な黒澤明監督。そ人とこれほど深いつながりをもった人は野上さんの他にはいません。その彼女が語るのですから、黒澤映画の舞台裏がよく分かるようになります。

「野上照代さんの本を読もう」の続きで書きたいこと

 長くなったので、続きは次回にしたいと思います。

 続きには、「野上さんの本を読むと何が分かるのか」、これを次の3つに分けて紹介する予定です。

  1. 野上さんと伊丹万作監督との関わり
    『完本天気待ち: 監督・黒澤明とともに』には野上照代さんが映画界に入ることになったきっかけが伊丹万作監督の『赤西蠣太』を観たことが書かれています。
    それから、伊丹十三監督(当時13歳)の飯炊き女になり・・・と伊丹家と深い関わりを持つことになります。
  2. 長年スクリプターとして得た映画製作の知識
    野上さんは「1」が縁で、撮影所でスクリプターとして働くことになります。スクリプターとは、何が撮影・録音されているかを記録します。フィルムを現像・編集をするのになくてはならない仕事です。
    映画がどのようにして作られるかについて分かって面白い。
  3. 野上さんが見てきた黒澤明監督の仕事
    野上さんは『羅生門』から、『白痴』を除く黒澤明監督の最後の作品まで、黒澤組の一員として働きました。野上さんはスクリプターとしてこれらの作品におけるすべての記録を保管していますから、黒澤明監督の映画製作手法や哲学について貴重な情報があるのです。

 映画を観るのは好きだけれど舞台裏には興味がない。ハリウッドに比べて日本映画はつまらない。そう思っている人でも、映画は膨大な労力をかけて作っているのが分かれば、今までより映画を楽しめると思います。

 うまく書けるかどうか分かりませんが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

*1:探検隊長を演じたソ連の俳優 参考:Wikipedia「ユーリー・ソローミン」