シロッコの青空ぶろぐ

高卒シニアが低学歴コンプレックス脱出のため、放送大学の人間と文化コースで学んでいます。通信制大学で学ぼうとする人を応援したい。学んで成功する人が増えれば、私のやる気も燃えるはず。

凄さが理解できなかった小津芸術に再挑戦・小津安二郎監督「秋刀魚の味」

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目次

今さら知った小津映画の凄さ

こんにちは、シロッコです。

今回は、小津安二郎監督の「秋刀魚の味」の話をします。

傑作娯楽映画を選んで上映する「午前十時の映画祭」で、小津安二郎監督の「秋刀魚の味」が2016/02/20(土)~03/04(金)、「東京物語」が2016/03/05(土)~03/18(金)に上映されたからです。(市川コルトンプラザの上映スケジュール

この映画にはちょっと残念な思い出があります。

30年近く前のお彼岸のころでしょうか、NHKで祝祭日に名画を放送することがあり、新聞のテレビ欄に名作と言われる「秋刀魚の味」を見つけてビデオに録画。何度か見た記憶があります。しかし、全く平凡な話で、話にぐいぐい引き込まれることもありませんでした。

感想は「ふーん、これの何処が凄いの?」というものでした。ひとが凄いと言っている映画の良さが分からないとしたら、人生損した気分です。

そこで、今回は、デジタル修復された大きな綺麗なスクリーンの小津作品を見てきたのです。

結果はどうだったのか。小津監督の作品は凄いと思いました。

では、なぜ、そう思ったのか。なぜ、前回はなんとも思わなかったのか。そのことについて書いてみます。

「秋刀魚の味」のどこがよかったのか

簡単にストーリーを紹介します。

  • 妻にを亡くした初老の笠智衆さん演ずる平山周平が主人公の映画です。岩下志麻さん演ずる年頃の娘がいて、彼女を嫁にやる話です。
  • 娘は父親を残して嫁ぐのが心配で縁談は進みません。平山周平が本気で嫁にやろうと決断するのは、水戸黄門でおなじみだった東野英治郎さん演ずる旧制中学時代の恩師のエピソードから。漢文の教師だったのですが、今ではラーメン屋を営んでいます。
  • 同級会のときに恩師を送っていくと、若くて美しかった娘は嫁にも行かずに老いていました。その姿をみて、縁談を強く進める決意をします。
  • 娘は結婚。
  • 結婚式の帰りに酔った平山はひとりでバーに寄ります。そこには亡くなった妻の面影がある女性がいるからです。たいした話をすることもなく、自宅に帰ります。酔った平山はフラフラと台所に行き水を飲みます。
  • 居眠りをしているその寂しそうな姿でエンド。

平山という主人公の優しさがよく伝わるところ

笠智衆さんの優しさスクリーンからよく伝わってきました。山田洋二監督の「男はつらいよ」のあの優しい帝釈天の御前様。長崎から北海道まで旅をする「家族」のおじいさん。山田太一さん脚本、 笠智衆さん主演の三部作 「ながらえば」、「冬構え」、「今朝の秋」。ニッポンのやさしお父さん、お爺さんのイメージですね。それがよく伝わりました。

第81回アカデミー賞 外国語映画賞を受賞した「おくりびと」という映画ががあります。劇映画ですからストーリーはありますが、それはそれほど重要ではなくて、それよりも死者を棺に納めるために死者を着飾らせる作業の美しさ、そこに映し出される死者をおくる人の気持ちの美しさに感動しました。

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 小津監督の映画も同じようにストーリーはそんなに重要ではないのではないかと思いました。

(笠智衆さんの表情は優しそうなものばかりでなく、寂しそうなもの、少し厳しく説得しようとするものといろいろあります。中には怒っているような違和感のあるカットもありました。あれは何だったのでしょう)

東野英治郎さん演ずる漢文を教えたという恩師の悲しさ、卑屈さが見事に描かれている

恩師の若くて美しかった娘が嫁にも行かずに老いた姿をみて、娘の縁談を強く進める決意をする話です。旧制中学時代には厳しかった恩師の漢文教師が、立派に出世して会社の重役になった教え子に、劣等感から卑屈に接してしまうのです。

その姿が哀れ。東野英治郎さんの名演です。

  • 旨い、旨いと食べている吸物の魚。「これは何ですか」と聞きます。
    「ハモ」と教えられると。
    「魚へんに豊。ハモ」と空中に書きます。難しい漢字は知っているのだけれど
    魚は食べた事がないのです。
  • 恩師とは思えないほど、平山たちに卑屈に感謝して頭を下げるラーメン屋のおやじ。旧制中学の漢文教師ころは威張っていたのかもしれません。生徒たちは一流会社の重役になって、今はラーメン屋です。いつもお客さんに頭を下げていて癖になっているのかもしれません。
    その存在が対照的です。
  • 帰ろうとしているのか、なくしてはいけないと思っているのか、よく帽子を気にする恩師。帰ろうとして帽子を何処に置いたか何度も確認します。
    普段はラーメン屋ですから、スーツも着なければ帽子もかぶりません。それで、なんども帽子を確認します。その姿に惨めさを感じました。
  • 飲み残しのウイスキーの瓶を貰って、喜び丁重に受け取る。飲んでしまったウイスキー(サントリー・オールド)をどこだっけと気にする恩師。
    こんな惨めな姿を教え子にさらしますが、昔は怖かった漢文教師なのです。
  • みすぼらしさに同情されて記念品代だとお金を渡されたり、恩師が哀れです。それを東野英治郎さんが見事に演じています。

「秋刀魚の味」は描かれている人物のバランスがとても良いと思いました。特に「ひょうたん」と呼ばれた恩師のキャラクターは、この映画の成功を支えるポイントになっていると思います。

なぜ、30年前は感動を味わえなかったのか

私が小津安二郎監督の「秋刀魚の味」を見たのは、NHKで放送されたものをビデオテープに録画したものでした。その当時は「小さな画面でも感動が伝わるのが良い映画。ドラマがしっかり構成されていれば良さは伝わるはずだ」と考えていました。

例えば、初めて「十二人の怒れる男 」を洋画劇場で見たときは、もう、寝るつもりいたのにどんどん引き込まれ、興奮して最後まで見ていました。

小さな画面のTVに映された白黒の映像でも十分映画を楽しめたのです 。

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この当時の考えは一部は当たっているかもしれません。しかし、「秋刀魚の味」は違うのではないかと感じました。

  • 小さい画面では表情がよく伝わらない。
  • 居間のテレビでは暗い映画館よりも緊張感が少なく集中力に欠ける。
  • 音響もよくない。
  • 放送時間によってカットされたシーンがある。

これでは緊張感のすくない、穏やかさや心地よさを表現した映画は見逃すことになってしまいます。

小津安二郎監督といえば、ローアングルからの撮影、登場人物がカメラに向かって話す、構図や動作に特徴があるというのは理解していました。しかし、それは気になりませんでした。それよりも、映画の中の登場人物がどんな表情をして何を話すのか、そのことの方に興味が湧きました。

映画の中で話す人の表情が一番伝わりやすい、切り取り方と大きさを求めていくと、自然とカメラに向かって話す手法に落ち着いたのかなと想像しました。

それと、人生の経験が増えて人を観察する目が肥えてきたのも、大きな原因だと思います。

奥さんを亡くした平山修平

自分が妻を亡くしたばかりなので、死んだ奥さんに似ているという女性に興味を示すシーンが印象に残りました。

娘の結婚式の帰り、平山周平はひとり岸田今日子さんのいるバーに寄ります。

この女性とは恩師のラーメン屋へ行ったときに出会った海軍の部下・加藤大介さん(艦長と呼ばれる)に連れられて行ったときに会います。

「似ている」と子どもたちに話したことから、長男と訪ねていくシーンもあります。

娘の結婚式の帰りに寄らせるための周到な伏線です。

私も一度、死んだ妻に似ていると思う人を見かけたことがあります。バスターミナルの列からポツンと離れて立っていたのですが、横から見た雰囲気が似ていると思い立ち止まってしまいました。

だから、 平山修平の気持は分かってしょうがないんです。

登場人物の感情を盛り上げるでもない軽快な音楽が印象的でした。

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