目次
- 小津安二郎の芸術に再挑戦
- 東京の子供たちを訪ねるが少しも相手にされない
- 小津安二郎監督は理想の親を描いた
- うるさい旅館でも文句をいうでもありません
- 周吉たちは小言を言うでも、子どもを恨むでもない
- 周吉たちは戦死した2男の妻を気遣う
- 尾道でとみが倒れます
- 30年前と今回の違い
小津安二郎の芸術に再挑戦
30年前にテレビで放送された小津作品を録画して観たけれども、その凄さを理解できなかった話は前にも書きました。
傑作娯楽映画を選んで上映する「午前十時の映画祭」。大きなスクリーンで小津安二郎監督の「東京物語」を観るチャンスです。市川コルトンプラザに行ってみてきました。「秋刀魚の味」は凄い映画でした。しかし、「東京物語」はそれほどではないんじゃないか、そう思いながら座席に座りました。
場所は前後左右のど真ん中。どの座席からも音響、映像が良く見えるように映画館を作ろうとすると、真ん中が一番よくなるのは必然ではないかと考えているからです。
それで、結果は凄かった。
「いやァ とうとう宿無しになってしもうたぁ・・・」
このセリフが出てくる中盤から、ずっと涙を流しながら観ていました。ところどころからすすり泣いている声が聞こえてきました。
良さが分からないかも知れないと心配して、 『「東京物語」と小津安二郎 なぜ世界はベスト1に選んだのか』を読みましたが、関係ありません。この本に書いてあることと私の感じたことは微妙にずれているんじゃないかと思います。
どこにどう感動したのか書いてみます。
東京の子供たちを訪ねるが少しも相手にされない
簡単にあらすじを紹介します。
- 尾道で公務員を定年退職した笠智衆さん演ずる平山周吉(70?)と東山千栄子さん演ずる妻のとみ(68)。
二人は東京に住んでいる子供たちの家を訪ねます。
後半に教育課長をしてたというセリフがありますから、県か市の職員だったのでしょう。
子どもは5人。山村聰さん演ずる長男は東京で小さな開業医をしています。杉村春子さん演ずる長女の志げは美容室を経営。
次男は8年前に戦死していて、その妻・紀子を原節子さんが演じています。
大阪にいる3男は国鉄に勤めるサラリーマン。一番下の京子は周平と一緒に住んでいて尾道の小学校教員をしています。 - 東京にいっても長男も長女も毎日仕事が忙しくて両親を東京見物に連れていくこともできません。
- そこで二人は両親に「熱海に行ってゆっくり休んでほしい」と言います。せっかく子どもたちに会いにきたの熱海へ。しかし、両親たちは「そうかぁ、忙しくて大変だなぁ」という雰囲気で熱海にいきます。
- しかし、熱海に行っても宿がうるさくてゆっくり眠ることも出来ません。昔の旅館ですから、襖でしきられているくらいです。宴会やらマージャンの音が聞こえるのです。
- 二人は東京に戻ってしまいます。
戻った長女の美容院では組合の寄り合いがあると言います。
「いやァ とうとう宿無しんなってしもうたぁ・・・」
妻のとみは戦死した2男の妻、紀子のアパートへ。周吉は旧友と飲みに行きます。 -
周吉は旧友との酒が進んで酔っ払い、警官に送ってもらって帰ります。
妻のとみは紀子に、再婚した方がいいと勧めるが、紀子は今のままが良いと言います。 -
二人は、尾道にかえります。しかし、とみの具合が悪くなって危篤。子供たちは駆けつけますが、妻のとみは亡くなってしまいます。
-
葬式が終わると杉村春子さん演ずる長女が「形見が欲しい」と言い、葬式が終わると東京に帰ってしまいます。
-
紀子が帰る日。周吉は亡くなった妻と同じように紀子に再婚を勧めます。周吉は妻の形見の懐中時計を渡します。
-
紀子が帰った尾道の家で周吉が一人のこされ、うちわを扇いでいるシーンで終わります。
「東京物語 - Tokyo Story -」:詳しいストーリーがあります。
小津安二郎監督は理想の親を描いた
小津安二郎監督が描いたのは親の優しさです。
笠智衆さん演ずる平山周吉(70?)と東山千栄子さん演ずる妻のとみ(68)。その子どもを見守る優しさには心を打たれます。
映画を見始まってすぐに気が付いたのは、笑顔の多さでした。平山周吉、妻のとみ、2男の妻の紀子、この3人がカメラに向かい微笑みながら優しく話しかけます。他の登場人物の笑顔はほとんどありません。この三人は微笑んで直接観客に向かって話かけます。
平山周吉を演じている笠智衆さんは、優しい日本のお父さん、お爺さんのアイコンのような方です。東山千栄子さんは日本の優しいお母さん、おばあさんの代表です。
母の実家に行くと「よく来たね」と喜んで、ご馳走をつくってくれ、お小遣いをくれたおじいさん、おばあさん。その優しさに通じます。ゆったりと笑顔で包んでくれます。あのイメージです。
小津安二郎監督は理想のお父さん、お母さんを描いたのです。
うるさい旅館でも文句をいうでもありません
せっかく子どもたちを訪ねて尾道から上京したのに、開業医になった長男は忙しい。美容院を経営で忙しい長女の提案で、周吉ととみは熱海の旅館で過ごすことになります。
東京に来たのに熱海に止まらせられます。
防音設備もない和室。マージャンを楽しむ男たちの声、宴会の音楽がうるさく聞こえてきます。
平山周吉と妻のとみは、なかなか寝付けません。しかし、苦情を言う訳でもありません。ただ黙ってそのうるささを受け入れます。
そんな周吉たちとは関係なしに、マージャンに没頭する男たち、宴会、芸者たち。私はそれをイライラしながら見ていました。
ずっと画面から私に微笑んでくれていた笠智衆さんと東山千栄子さんを応援したい気持ちになっていたのが分かりました。
翌日。平山周吉と妻のとみは東京へ帰ることなります。
海辺の堤防。
「お前はよう寝とったよ」
「わたしも寝られんで」
ここで、とみが立ち上がるときに、ふらっとします。
「よう寝られなんだからじゃろう」
尾道の言葉だからでしょうか優しさが伝わったきます。
周吉たちは小言を言うでも、子どもを恨むでもない
周吉たちが急に帰って来て、美容院の長女は困ります。組合の寄り合いがあって泊まれないのです。そこで、とみは戦死した2男の妻のところへ、周吉は旧友のところへ行くことにします。
そのとき周吉が言うのが、「いやァ とうとう宿無しになってしもうたぁ・・・」と言うセリフです。
子どもを訪ねて東京に来たのに、東京見物に連れて行ってくれるでもなく、さらには泊まる場所もない。
私なら「いい加減にしろ!」と怒鳴りたくなるところ。けれども、周吉たちは淡々と受け入れ、子どもを恨むでも、小言を言うでもありません。子どもたちが忙しいのは良くわかると理解を示します。
子どもたちには生活があり、自分たちを構えないのは仕方のないこと。子どもたちのことを思うのですね。往診で忙しい長男や組合の寄り合いの場所にもなる長女を誇りに思っているのかもしれません。
この親の優しさに心を打たれます。それが親というもの。それが世界に通用するのは当たり前のこと。だから、世界一の映画なんです。
ここから後は、ずっと涙を流しながら見ていました。
周吉たちは戦死した2男の妻を気遣う
子どもたちが生活に追われ、親を大切にできないのは仕方のないこと。それで映画が終ってしまっては救われません。
そこで登場するのが、次男の妻・紀子です。
妻のとみは紀子に、再婚した方がいいと勧めます。
紀子は今のままが良いと言います。
ここでも二人は笑顔を浮かべながら、静かに話します。東山千栄子さんの紀子を思う気持ちが伝わってきます。
紀子は周吉たちを東京見物に案内します。
尾道でとみが倒れます
周吉は「治るよ・・・治る治る ・・・治るさァ・・・」と意識のないとみに声をかけます。もう、駄目かも知れないと思っているのか知れません。
妻を励ますような言葉というより、自分に諦めなさいと言っているような言葉でもあります。
とみは亡くなります。
紀子が帰る日。周吉は亡くなった妻と同じように紀子に再婚を勧めます。周吉は妻の形見の懐中時計を渡します。
周吉はひとり尾道に残ります。
30年前と今回の違い
今回見たのは 「東京物語 ニューデジタルリマスター」です。YouTubeの予告を見てください。デジタルで処理した画像はきれいで表情がよく分かります。
この映画は笑顔がとても大切で、それをじっくり感じることが出来たのか大きな違いです。 30年前は小さなテレビで、今回は大きなスクリーンです。
それと、自分が年齢を重ねたこと。私の親はもうこの世にいないことも、大きな感動を得た原因かと思います。
この映画の凄さを理解できなかったころ、黒沢明さんの「小津さんの映画を観ると涙がでる」と言う文章を読みました。天下の黒沢明さんが言うのだから間違いないのだろうと思っても、釈然としなかった記憶があります。
親の気持ちが痛いほどわかるようになったの大きな違いです。
2012年、「東京物語」は世界の映画監督358人が選ぶ「Directors’ 10 Greatest Films of All Time」で1位になっています。
みなさん、ぜひ、世界一の映画を味わってください。
デジタル修復された大きなスクリーンの綺麗な画像なら、きっとだれでも感動すると思います。
いい映画を見ると人生得します!
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