「東京物語」と小津安二郎: なぜ世界はベスト1に選んだのか (平凡社新書)
- 作者: 梶村啓二
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2013/12/16
- メディア: 新書
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目次
「午前十時の映画祭」、トリは小津安二郎監督
「 第三回 新・午前十時の映画祭 デジタルで甦る永遠の名作」が開催されています。TOHOシネマズ 市川コルトンプラザ の日程を見ますと、30作品が2015/04/04から上映され、残るのは小津安二郎監督の「秋刀魚の味」と「東京物語」の2本です。
なぜ、小津安二郎監督なのか。
小津安二郎監督は昔から評価の高い監督。蓮見重彦さん、佐藤忠男さんなど著名な映画評論家が小津さんの本を書いています。2012年、「東京物語」が世界の映画監督358人が選ぶ「Directors’ 10 Greatest Films of All Time」で1位になっています。
ですから、映画祭の作品選定委員がトリに小津監督の2本を選ぶのも当然と思われ、妥当な選定だと思います。
しかし、「秋刀魚の味」も「東京物語」も何度か見ましたが、正直にいうとその凄さはよく分かりません。権威のある人が凄いと言っていますから、私は、ふーん、と思いながら、そうなんでしょうねぇ、と言うしかありませんでした。
随分前の若いときに見ましたから、小津監督のコンセプトを理解できなかったのかも知れません。ただ、何度か見ているといくつか気がつくことはありました。
- 台詞のリズムが一定で気持ちがいい。
- 歩く速度とか、動作が同じようなリズム。
- 構図が決まったパターンで、現実ではありえないように人が並ぶ。
今まではテレビの小さな画面ですし、自宅という雑然とした集中のできない環境でしたが、今度はコルトンプラザで大きなスクリーンで「秋刀魚の味」、「東京物語」を見ることができます。
その前に、これを機会に小津監督に関する本を読んで理解を深めてから、「秋刀魚の味」と「東京物語」をみようと考えました。その第一弾が『「東京物語」と小津安二郎: なぜ世界はベスト1に選んだのか』だったのです。
30年前からはかなり変化している私
「東京物語」は名作だと言われます。実際に映画を見ると退屈とも思えるシーンの連続。篠田正浩監督が「動いているのは洗濯物だけだ」と言っていました。派手な動きが少ない映画です。
「Directors’ 10 Greatest Films of All Time」を選出するために投票した監督は358人。一人10票ですから、全部で3580票。そのうち48票が「東京物語」に投票されました。この数字は多いのでしょうか?
「東京物語」を何度か見たのは30年近くも前のことです。
笠智衆さん演ずる平山周吉の年齢に近づいてきました。平山周吉と同じように妻を失いました。また、老いた義母をかかえ、原節子さん演ずる戦死した次男の妻と同じような立場になってきました。
戦死した次男の妻と言えば、もっと辛かったと思われる女性に会ったことがあります。
還暦を期に開いた中学校の同級会で若くして農家に嫁ぎ、何人かの子どもを授かりましたが、夫が事故死。運転していたブルドーザーが転落し、下敷きになってしまったのです。
彼女の隣に座ると「大変でしたね」と私。
「子どもを残してくれましたから、良かった」と彼女は言います。
もう、何度も何度も使い古された言葉をかけられ、彼女の答えは洗練されて単純に理想のようなものに到達したのだと思いました。
嘆きたかった。農家の嫁の立場などは捨て、自由で素敵な恋愛をしたかったかも知れない。けれど、何もいいません。
若くして結婚すると、すぐに夫が車椅子の生活のなった女性も。そんな女性にも「大変でしたね」と簡単に軽く言うしかありません。
午前十時の映画祭の 「東京物語」を見て私は何を感じるのでしょうか。
解説を読まないでそのまま映画を感じたいという気持ちもありました。しかし、大きなスクリーンで小津さんの映画を見る機会はこれが最後かもしれません。じっくり調べてから、くまなく細部まで見たいと思います。
引用されたクライマックスのシナリオで泣きそうになった
この本を読んでいて、私は泣きそうになりました。それは、平山周吉の妻が死に形見の懐中時計を原節子さん演ずる戦死した次男の妻に渡すところです。孫引きになりますが紹介します。
周吉「こりゃァ、お母さんの時計ぢゃけどなーー(フタあけネジまき)今じゃァこんなものァ流行るまいが、おかあさんが恰度あんたぐらゐの時から持つとったんぢゃ。形見に貰っておくれ」
紀子「でもそんな・・・」
周吉「えゝんぢゃよ。貰ふといておくれ(と渡して)あんたに使ふて貰やァ、お母さんも屹度よろこぶ なあ 貰ふてやっておくれ」
紀子「(悲しく顔を伏せて)・・・すみません・・・」
周吉「いやァ・・・。お父さん・・・、本当にあんたが気兼ねなう、先々幸せになってくれることを祈つとるよ・・・ほんとぢゃよ」
紀子は、胸迫り、無言で顔を両手で多い嗚咽する。
形見の懐中時計。
笠智衆さん演ずる平山周吉の言葉が柔らかくて優しいですね。
小津安二郎監督の映画は、平凡で少しもドラマチックでありません。演出は薄味で役者さんには能面のような芝居を要求しました。
登場する家族も「麦秋」では大学教授ですし、お金に困るような人たちではありません。なぜ、そんな豊かな人を描くのかというと、老いの不安や子どもが自立していく寂しさを描くには、貧しい下町の家族ではダメなんです。貧しい家族では生活の苦しさ、社会に対する不満を強くイメージしてしまいます。
「僕はトウフ屋だからトウフしか作らない 」。
これは有名は小津安二郎監督の言葉ですが、味の濃いドラマになってしまっては、小津さんの描きたいものが描けなくなってしまうのです。
われわれは、人生においてなんと多くの避けがたいことに遭遇し、そして、それを受け入れて行くことだろう。避けがたさを受け入れていく人々の尊敬を見つめたい。小津のそんな声が聞こえてくる。
彼の感受性の本質は、万人にとって避けがたく普遍的な悲しみ、それゆえに劇的にはなれない悲しみに感応する共感力(シンパシー)なのだと思う。
「東京物語」と小津安二郎 なぜ世界はベスト1に選んだのか p200
小津安二郎監督の映画が名作というけどイマイチよく分からない。「東京物語」のどこが面白いが分からない。そんな人にこの本はオススメです。
山田洋二監督が興味深いことを話しています。若いときは小津作品の良さが分からなかったけれども、年齢を重ねるごとに分かるようになってきたと言っているのです。私もまだ若かったから、人生を諦めて耐える辛さがを理解できなかったのかも知れません。いえ、諦めずにしがみついて生きてきたのです。そういう人はいるかも知れないけれど、私は違うという感じでしょうか。
もしかして、まだ若いあなたは耐える必要がなく、耐えている登場人物をみても、どこか他人事に感じてしまうのかも知れません。
「午前十時の映画祭」で見る小津作品に、きっと私は感動するのではないかと思います。それが楽しみです。
まとめ
小津安二郎監督の映画の良さがイマイチよく分かりませんでした。
近く「秋刀魚の味」と「東京物語」を見る事が出来る機会があります。その前に理解を深めようと『「東京物語」と小津安二郎 なぜ世界はベスト1に選んだのか』を読みました。
小津さんの映画は薄味です。
誰もが多くの避けがたいことに出会い、それを受け入れて行きます。それを優しく描いたのが小津さんの映画。今度は泣いてしまうかも分かりません。
今日は妻の三回忌。浦和の和光院へ行ってきます。
積ん読になっている小津安二郎監督に関する本
小津安二郎 僕はトウフ屋だからトウフしか作らない (人生のエッセイ)
- 作者: 小津安二郎
- 出版社/メーカー: 日本図書センター
- 発売日: 2010/05/25
- メディア: 単行本
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