シロッコの青空ぶろぐ

高卒シニアが低学歴コンプレックス脱出のため、放送大学の人間と文化コースで学んでいます。通信制大学で学ぼうとする人を応援したい。学んで成功する人が増えれば、私のやる気も燃えるはず。

映像の魔術師・宮川一夫著『キャメラマン一代』から学ぶ映画理解の方法

目次

映像の魔術師・宮川一夫さん

 こんにちは、シロッコです。

 野上照代さんの本を読み、監督が目指す映像を完成させるため、いかにこだわって作業をしているかを知りました。映画は参加者全員で作り上げる共同作業です。中でも、キャメラマンの役割が重要であることを知り、読みたくなったのが、宮川一夫著『キャメラマン一代』です。

 宮川一夫さんは、日本映画が世界のトップを走っていた時代の名作を撮影したキャメラマンです。著名な撮影作品の一部を上げると、稲垣浩監督『無法松の一生』、黒澤明監督『羅生門』・『用心棒』、溝口健二監督『雨月物語』・『山椒大夫』・『近松物語』など多數にわたります。

 この記事は『キャメラマン一代』を読むメリットを次の3項目に分けて書いていきます。

  1. 照明と構図・画質へのこだわり
    グレーが中心の水墨画のような『雨月物語』。高いコントラストでワイドな画面の『用心棒』。そのこだわりが分かります。
  2. カメラワークへの注目
    溝口健二監督との作品は、クレーン移動による長回しで状況が語られます。
    黒澤明監督『羅生門』ではカメラが森の中に入ります。
  3. カメラマンから見た監督の観察
    セットの中に1日中いるために尿瓶で用をたしていた溝口健二監督。

 これらの知識を深めることで、映画の見方が広がるといいな、そんな期待を持ちながら書いていきます。

照明と構図・画質へのこだわり

 グレーが中心の水墨画のような『雨月物語』。高いコントラストでワイドな画面の『用心棒』。映画撮影はフィルムに絵を描くこと。宮川さんのカメラマンとしての成功は絵の才能によるものだと思います。

 宮川さんは絵を描くことが好きな少年でした。小学校時代から近所の日本画家・原田光嶺塾で14年間水墨画を習っていました。中学を出てからも絵を習っていて、原田先生の紹介で子ども服のデザインをやっています。

 原田光嶺塾で学んだ水墨画の技術が『雨月物語』に生かされているのです。

 絵画の才能と言えば黒澤明監督が画家を志し、二科展入選の経験があるのも有名です。また、溝口健二監督も本格的に画家をめざして、洋画研究所で洋画の基礎を学んでいます。

 まず、宮川さんは撮影所で現像技師として働きます。そこでフィルムの特性をがっちりと学びましたから、「グレーが中心水墨画」、「ハイコントラストの画像」と工夫することができたのです。のちにカラー映画だけれども、しぶいモノクロの雰囲気を残す「銀残し」という手法を編み出しています。

 『羅生門』では、土砂降りの雨の中に立つ半分崩れた巨大な羅生門から映画が始まります。水は無職透明ですからほとんど写りません。そこで、ポンプで撒く水に墨汁を入れて水が写るようにしています。

 『無法松の一生』の人力車の車輪がオーバーラップするシーンではフィルムを巻き戻して二重に写しています。

 世界初のことがヤマのようにあるのです。

カメラワークへの注目

 キャメラワークは洋画から学んだといいます。

  『羅生門』でカメラが森の中に入ります。杣売りが斧を担いで山奥へ入るシーンはカメラが杣売りの周りを回っているように見えますが、現実はレール上のカメラの周りを杣売りが移動して、カメラが回っているように見せています。

 『雨月物語』では現実には移動していないセットで組んだ池の小舟を湖に浮かんで移動しているように見せています。ガスで霧が立ち込めているように見せ、幽玄な雰囲気を醸し出しています。

 溝口監督の作品はクレーンで移動しながらの長回しが多用されています。

 長回しは現実の時間がフィルムに写ります。芝居の緊張感がそのまま伝わるのです。

 映画をみたら、なぜそのカメラワークなのかと考えてみます。そのねらいを知れば、いろいろと推察することが出来るようになるのではないかと期待しています。

カメラマンから見た監督の観察

 助手カメラマンの時代から宮川一夫さんは、多くの映画監督と対話をしています。

 宮川さんはお酒を飲めないのですが、山中貞雄監督によく「飲みに行こう」と誘われたそうです。山中監督はよく東京へ出かけました。小津安二郎監督に会うためだったそうです。わざわ東京に行ってじっくりと話す。話を理解してくれる人が最上の人だったのでしょう。

 みんなで寄ってたかってシナリオを作り上げていく話も紹介されています。

 稲垣浩監督は編集の名手で、カメラで撮ることでなく、フィルムを繋いだらどうなるかというテクニックを教わったといいます。

 黒澤明監督は編集が大好きで全部自分で編集し、予告を集めた作品の編集までしています。そして、セットや小道具の汚しなども率先してやる。すると、みんなが放っておけないから全員でやることになります。

 黒澤監督は演技について細かく指示をして何度もリハーサルをして芝居の完成度を高めていきます。それがうまくいかないと自分で動いてみせたり、セリフを言って抑揚を伝えたりします。

 それに対して溝口健二監督は、役者はそれが仕事なのだから演技は自分で考えないなさい、指導はしません。しかし、ダメです、やり直し。その繰り返しです。

 溝口監督が芝居の雰囲気から離れたくないために尿瓶を使っていたのは有名だそうです。宮川さんは「雰囲気を盛り込んで下さい」とは言われますが、撮影の方法までは指示されないので逆に難しかっただろうと思います。

 キャメラマンは工夫をして撮影をしますが、苦労して撮影した部分でもオミットされてしまうこともあります。それは監督が全体の流れから決定すること、それも仕方のないことです。

まとめ

 宮川一夫著『キャメラマン一代―私の映画人生60年』を読みました。宮川一夫さんは、日本映画が世界のトップを走っていた時代の名作を撮影した日本を代表するキャメラマンだからです。

 この本を読んで自分の映画を見るポイント、態度がが変わったと思います。

 宮川さんの照明と構図・画質へのこだわり、カメラワークの工夫、宮川さんが見た監督の姿、これらを知って貰えれば、皆さんにもまた違った視点から映画を考えることが出来るかも知れません。

 ここまで読んできていかがだったでしょうか。
 最初に言ったように、みなさんの映画の見方が広がるれば幸いです。

 最後まで読んで頂いてありがとうございました。