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優しさの滲み出る大江さんの話し方
放送大学図書館の映像音響資料室奥の文学のコーナーに大江健三郎さんの「文学再入門」というビデオがあります。ビデオは12本。1本が30分の番組で、NHK教育で放送された「NHK人間大学」をVHSビデオにして販売したものです。
大江健三郎さんと言えば、日本人として二人目のノーベル文学賞受賞作家として著名な方なのですが、本は一冊も読んだことがありません。図書館で本を見つけると、読んでみようかと本を手に取るのですが、最初のページを読みだしただけでそっと棚へ戻してしまった記憶があります。私にはとても難解な文章なのです。
このビデオがAVブースの奥にあるのは分かっていたのですが、難しい話なんじゃないかと敬遠していました。
単位認定試験になるというのにこんなのを見始めた。「大江健三郎 文学再入門」。小難しい話ではなさそう。 (@ 放送大学附属図書館 in 千葉市, 千葉県) https://t.co/J9cQXoXuHn pic.twitter.com/jU6JBqhAXx
— sirocco (@sirocco_jp) 2017年1月20日
難しかったら見るのを止めればいい。そんな気持ちで見始めたのですが、すっかり大江さんの話し方に引き込まれてしまいました。
「私はね、〇〇だったんです。それでね、この本はとても大事な本なんですけれども、こんなふうに赤線を引きましてね・・・」
こんな感じで優しく話しかけるのです。
そして、名作と言われる作品の解説をして、紹介したい部分をNHKのアナウンサーが朗読します。それから、大江さんの作品の一部が朗読されます。
実をいうと、大江さんの紹介する本は一冊も読んでいません。ドフトエスキーも、バルザックも、フォークナーも・・・。けれども、大江さんが、こんなところがいいと解説して、そこを朗読されるととてもいいんです。本を読みたくなります。
大江さんは文学は人を励ますものだと言います。
他人がいい小説だと感じるなら、自分もその良さを感じられるようになりたい。それが感じられないなら人生損してしまうと思います。
1本目の「小説との再会」を見て、全巻を見ることにしました。
各巻はこんな話です
1小説との再会
話の中心は文学には人を励ます力があるということ。
ドフトエスキーの「罪と罰」や志賀直哉の「暗夜行路」には困難から回復するシーンがあって、それを読むと勇気づけられると話してました。
ひとを励ます力。覚えておきます。
2愉快なドフトエスキー
細部が重要だという話。
大江さんが初めて読んだ本は夏目漱石の「坊ちゃん」だそうです。作品に登場する清(きよ)という下女に心を惹かれたと言います。私も「坊ちゃん」の清は自分のお婆さんのように親しみを感じていましたから、興味深く聞きました。大江さんの紹介する本は一冊も読んでいないといいましたが、これ、読んでました・・・Orz
3元気の出る「罪と罰」
書かれていることよりも、書き方が重要だという話です。
日本の小説は私小説的なものが多く、声がひとつ(モノフォニー)だが、罪と罰には多声的(ポリフォニー)でいろんな声が入ってくると言います。
ミハイル・バフチンの小説理論が紹介されます。
「罪と罰」には日常とは違うカーニバル的なものがあると言います。カーニバルは日常の決まりは踏み外され、ひっくり変えされている。生命の中に死が含まれ、死の中に生が含まれている。
作品の中の「叫び声」のようなものは、暗さもあるが力づけられる。
4井伏鱒二の祈り
バフチンのグロテスク・リアリズム。
- 宇宙的、社会的、肉体的な要素がひとかたまりになって現れる。
- 生と再生が常に結び合って両面価値的イメージを構成する。
井伏鱒二の「かきつばた」が紹介されます。
池の中にかきつばた咲きます。しかし、それだけではなく、水面には女の死体が浮いているというシーン。
梶井基次郎「桜の樹の下には」の「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」という書き出しが素晴らしいという話を何度か聞いたことがあります。たしか、林修さんもそんなことを言っていたような気がします。
なぜ、「桜の樹の下には」を絶賛する人が多いのか、大江さんが紹介しているバフチンの小説理論にピッタリなのですね。
ひとつ、小説の読み方がわかりました。
今回はここまで
全部で12巻あるビデオなので、10巻まで見終えています。
書くパワーが消耗してしまったので、今回はここまでにします。
大江健三郎さん関連情報
この本を読んでみたい。
若い読者の方たちに向けた「大江健三郎文学入門」だそうです。
「なぜ自分がこんな目に? と思ったら大江を読め」と言います。
人生には、だれからも答えてもらえない問いを問うて、それに自分で答えなければならないときがある。
私にも生きているうちに答えを出したい「だれからも答えてもらえない問い」があるのです。
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