シロッコの青空ぶろぐ

高卒シニアが低学歴コンプレックス脱出のため、放送大学の人間と文化コースで学んでいます。通信制大学で学ぼうとする人を応援したい。学んで成功する人が増えれば、私のやる気も燃えるはず。

文学って役に立つんですか?・NHK人間大学「文学再入門」 (3)

目次

書評になっていない・・・Orz

今まで何本かの本を紹介する記事を書きましたけれども、書評になっていないなぁと反省しています。

では、書評とはなんぞや、どんなものなのでしょうか。

書評(しょひょう、Book review)とは、一般的に、刊行された書物を読者に紹介する目的で論評や感想などを記す文芸評論の一形式である。

書評 - Wikipedia」より

うむ。言えてますね。私の場合、紹介する目的で論評や感想などを記すんですけれども、論評や感想の部分が弱い、それが問題のようです。

また、ダラダラと内容を紹介するだけにならないよう注意しながら、NHK人間大学「文学再入門」について書いていきます。

8小説のなかの子供

小説にはどうして子供時代の話が描かれるのか。その意味は何なのか。

夏目漱石の「坊ちゃん」は子供時代に負けず嫌いだったことから失敗したエピソードの紹介から始まります。

小学校時代に友人から挑発されて、二階から飛び降りたこと。これも友人に挑発されて西洋ナイフで自分の指を切ったこと・・・。もっと続きます。

ユング「神話学入門」で述べられている「幼児神」が大江さんの作品に登場する子供たちにもよく当てはまっていると言います。

神話学入門 (晶文全書)

神話学入門 (晶文全書)

 

 

 「幼児神」とはどんなものなのか、ユングの「幼児神」について検索するとこんなのが見つかりました。

神的な子ども
純真な幼児、神聖な子の元型です。夢の中においても赤ちゃんや幼児として登場し、純粋で傷つきやすく、汚れを知らない変容の力を持って現れます。また、真の自己、完全性のシンボルとして永遠の神聖さを象徴するものでもあるようです。

 (「ユングで学ぶ心理学入門・神的な子ども」より)

 小説は論理ではなくイメージで表現が広がるものです。ですから、ユングの「幼児神」を持ち出したのになるほどと納得しました。

「坊ちゃん」のような子ども時代のエピソード紹介は読者が持っている共通のイメージを呼び起こすのです。

それで思いついたのが、ブログのプロフィールに子ども時代のエピソードを載せること。私のイメージが伝わるんじゃないかと思いました。

私はとても引っ込み思案で人前に立つのが嫌な性格でした。

小学生のとき、「はい、これ分かる人!」と先生が言えばみんな、「ハイ、ハイ!」と手を揚げます。ところが、私が手を揚げないものですから、先生が心配して私に答えを聞きます。私が答えると先生に「なんで分かっているのに手を揚げないのだ」と言われてしまいました。

それが正しいという自信がなかったからでしょうか。それとも、間違うかも知れないのに自ら進んで答えるのは得策ではないと考えたのでしょうか。言わなくてすむならそのまま過ごしたいという嫌な性格。

今でも、そんなことがあります。

9「戦争と平和」の道化者

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

 

世界の名作が次々と登場するのに、私は全く読んでいないものですから、どんどんと落ち込んでしまいます・・・Orz

大江さんは、この「戦争と平和」に登場するピエール・ベズウーホフはトリックスターだと言います。トリックスターって何でしょう。筒井康隆さんも使っていた言葉のように記憶しています。

トリックスター (英: trickster) とは、神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる者のこと。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、全く異なる二面性を併せ持つのが特徴。
ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名した類型であり、のちカール・グスタフ・ユングの『元型論』で「トリックスター元型」として人間の超個人的性格類型として取り上げられたことでも知られる。
シェークスピアの喜劇『夏の夜の夢』に登場する妖精パックなどが有名。ギリシア神話のオデュッセウスや北欧神話のロキもこの性格をもつ。

(「トリックスター - Wikipedia」より)

井上ひさしさんの戯曲にはトリックスターが登場すると大江さんは言います。宮沢賢治などをこっけいな人物として描き、最後には重要なメッセージを残して去る。宮沢賢治はトリックスターとして描かれています。そして、井上ひさしさんそのものがトリックスターだと言っています。  

「はてな」にもトリックスターのように神や自然界の秩序を破り、引っかき回す人がいます。そういう人がみるとうらやましくて仕方がありません。

トリックスター。私もトリックスターになりたいものですが、なれるのでしょうか。面白いブログを書くためには新しい視点を提供して、ブログ界を引っかき回さなければなりません。神話的に誇張されて魅力的になった人格と考えれば良いでしょうか。

面白い人になる。そんな視点を持って文章を書ければもっと面白く書けるのではないかと考えたのでした。

10中野重治、佐多稲子の水

 この回はロシア・フォルマリズムの理論家・シクロスキーの「異化」の話です。

フォルマリズムとは形にこだわる文学理論の一派なのですが、「はてなキーワード」の解説が素晴らしくて圧倒されました。

「異化」とは、日常生活の中で自動化されてしまっていることを、はっきりと明確に描くことで実在感のある文章にする技法です。「異化」はロシア語では「オストラニーニェ」というそうですが、それを大江さんがロシアの人に聞いてみると「不思議化」と訳したそうです。

中野重治「日暮れて」が朗読されます。ふだんなら見逃されるどこにでもある駅の水飲み場の一コマ。少女が水を飲む様子が丁寧に描かれます。それを男が見ているシーン。

映画で言うならば、シナリオには1行しかないト書きがいくつもカットが重ねられて強調されるようなイメージでしょうか。文学ではそれを丁寧に描きます。

ブログに関して言うならば、この技術を活用できる場面はそれほどないように思われます。

11想像し物語る大岡昇平

編集者が大江さんのお母さんから話を聞いて文章にしたという話から。どのようにして稼業である紙の材料を扱う商いをしてきたか、どのように子供を教育してきたか、「異化」しながら話していると言います。

ヒロシマ・ノート (岩波新書)

ヒロシマ・ノート (岩波新書)

 

「 ヒロシマ・ノート」で大江さんは被爆者からの聞き取りをしています。それを文字にして確認すると、「実際はもっと恐ろしかった」といい、それをまた文章にすると「それよりも恐ろしかった」と言ったそうです。

空と夢―運動の想像力にかんする試論 (叢書・ウニベルシタス)

空と夢―運動の想像力にかんする試論 (叢書・ウニベルシタス)

 

そこで哲学者パシュラールの話になります。パシュラールは、想像力は与えられたイメージをそのまま受け取るのではなく、  それを作り変えていく働きがあると言います。

大岡昇平「歩哨の眼について」の紹介があり、トルストイの「戦争と平和」のように個人的体験のイメージから作り直したのが「レイテ戦記」だと。

アマゾンをみてみます。

レイテ戦記 (上巻) (中公文庫)

レイテ戦記 (上巻) (中公文庫)

 

大岡昇平による戦記文学作品。太平洋戦争の“天王山”と呼ばれ、日本軍8万4千人もの犠牲を生み出した(対して米軍の死傷者は1万5千人)レイテ島における死闘を、厖大な資料や多くのインタビューを取り、それらを紐解いて再構築したものである。
 (アマゾン「レイテ戦記」商品の説明

小説なんですけれども、資料やインタビュー、それに個人的体験が重ね合わせられているようです。

恐竜の話を聞いて、そのまま描くのは想像力が働いていない。与えられたものを作り変えるのが想像。「裸の王様」をひとりだけ殿様に変えた子供がいたという話が印象に残りました。

何か気になるエピソードを目にしたら、それをそのまま書くのではなく、何か本質に迫るものに作り変えて書く必要があるんだと思います。

12未来の人間モデル

文学は生きていくのに役に立つのかという話から始まります。アンチテーゼが二つ紹介されます。

農業をしている旧制中学の友人を文学賞の集まりに連れていくと、彼はこう言ったというんですね。

「ここには人がいっぱい集まっているけれども、これがないと生きて行けないというものを作っているのは私だけだ」と。

また、日本について分かる本が欲しいという人に、文化人類学や小説などの本を送ったら、小説は事実でないから役に立たないと送り返されたと。

それについて、文学は人間についてのモデルを作る。未来の生のモデルとして役立つものを作るものだと言います。 

そして、次の3作品が紹介されました。 

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

 

 

目まいのする散歩 (中公文庫)

目まいのする散歩 (中公文庫)

 

 

懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)

懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)

 

それで思い出したのが、ある方から聞いたドフトエスキーについての話です。

ドフトエスキーを読むにはかなりの忍耐が必要だと彼は言います。登場人物の名前が長くて、その数も多い。さらに作品はくどくどと冗漫で会話は饒舌だからだそうです。ところが、これ等に悩まされながらも読み進めると、人生の厳粛さ、人間性の深刻さを知り、慄然とすると言うのです。

私は映画に励まされました。駄目なヤツだけど精一杯生きる「ロッキー」。三重苦のヘレン・ケラーを言葉の世界へ導いた「奇跡の人」のサリヴァン。わがままでも自由に力強く生きる「風邪と共に去りぬ」のスカーレット・オハラ・・・。

人間についてのモデルは、私が生きていくのに役に立ってきたと実感しています。

まとめ

大江健三郎さんのビデオ・NHK人間大学「文学再入門」をみました。

「文学再入門」ということは、昔読んだ文学をもう一度読み直すと、良さが深くわかりますよということで、読むための解説をしています。しかし、大江さんが小説を書くための文学理論を紹介しているようにも見えます。

私にとっては、純文学はこういうものなのだと知ることになり、読んでみたいと思うようになりました。また、これからブログを書くのにも役立ちそうです。このビデオに出合えたのは幸運でした。

ただ、残念なのは入手する方法がないということ。放送大学の図書館で見るしかありません。放送大学の図書館は、カウンターで用紙に氏名、住所など必要事項を記入すればだれでも利用できますが、遠い人には無理な話です。

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