例が多く示された実用的な論文指導書
慶應義塾大学の三井宏隆教授が学生に向けて、レポート・卒論の書き方(何について、いかに書くか、どのようにまとめるか)を書いた本です。
この本の特徴はなんと言っても実用的なこと。豊富な事例がたっぷり紹介されています。
「○○について説明しなさい」、「○○について論じなさい」、「○○について考察しなさい」の違いの解説も参考になりました。
出題されたレポート課題に対して、複数の回答例が示され、その評価と教授のコメントが掲載されています。提出したレポートはどのように評価されるのか、それが分かり、どんなレポートを書くべきかの参考にすることが出来ます。
卒論の研究事例と指導教員のコメントもあります。卒論に取り組もうと考えている初心者の私にとって、進むべき道が見えてきたように感じました。
ここで扱っているのは「社会心理学」の卒論です。私が学んでいるのが「心理と教育コース」と分野が同じですから、私にもってこいの本でした。
豊富な事例が参考になりました。どんな事例が掲載されているのか紹介してみます。
【事例】レポートはどのように評価されるのか
ここでは、授業として課される「レポート課題」について、提出されたレポート、それに対する教授のコメント、A~Dの評価が掲載され、どのように評価されるのかが示されます。ざっくりと評価の内容を紹介してみます。
レポート課題
「社会心理学は、いかなる学問であるかについて述べなさい」(1600字以内)
- レポート1
私が観ると、旨く書けているレポートだと思った。しかし、教授の評価は「B」。
定義は国語辞典でなく、専門の文献をあたれと言われます。
教授からすると、問いに答えていないレポートという評価。 - レポート2
教授の評価は「D」。感想文ではないと言われます。
1600字と言っているのに、1000字程度ではダメ。
オーバーはダメ。80%が限度。50%以下では読まずに「D」。
放送大学では、レポート提出が出されることはないようですが、今後オンライン授業が増えればレポート課題が多くなりそうです。参考になります。
【事例】答案は、どのように評価されるのか
テキスト持込可の試験の答案例が紹介されています。
設問
「自分が変わる」もしくは、「自分を変える」ことが、どうして「エンパワーメント」(empowerment)と結びつくのか。研究例を挙げて、具体的に説明しなさい。
- 答案1
評価:B
そつなくまとめられているようだが、迫力に乏しい。
女性が直面する社会的差別や不合理といったものと戦う意気込みと結びつけてエンパワーメントを論じて欲しかった。 - 答案2
評価:A
"お見事"の一言に尽きる。 - 答案3
評価:B
取り上げたテーマが化粧とボディビルに分散し、焦点がぼけ、論旨展開が明快さに欠ける。
答案評価の印象に残った部分を書き出してみました。うーん、Aを取るのは大変そうです。
どのような方法で研究しようとしているのか
「卒論の進め方:事例研究」に6件の事例が紹介され、指導教員のコメントが掲載されています。
これから卒論を書きたいと考えている私にとって、どのような方法で研究しようとしているのかに興味がありました。そこから先は、今考えても仕方がありません。とりかかってから考えようという作戦です。
- 事例1:ジュニアブランドを通してみる母娘関係
母と娘の関係には特別なものがあるという仮説。
ジュニアブランドを買いにきた母親に質問紙調査をする。
ショップで待ち伏せしてインタビューしては、と指導教員からコメント。 - 事例2:食生活とジェンダー
持ち帰り弁当などの総菜を利用する頻度の多さと、ジェンダー意識の関係。
質問紙調査とインタビューの併用。対象は学生、一人暮らしの社会人、主婦。 - 事例3:ファンの心理と現代の人間関係
インタビュー、もしくはアンケート調査、ファンの非公式HPの分析、ライブ会場に足を運んで観察。 - 事例4:ピンと消費行動の関係性
「ピンとくる」ときの原因は何なのか。
質問紙調査。
指導教員から、タバコを買ったことのない人に千円札を渡して、タバコを買わせてみるのはどうかとコメント。 - 事例5:「するスポーツ」と「見るスポーツ」
質問紙調査、インタビュー調査を予定。スポーツ番組の内容を分析。 - 事例6:大学生が受ける他人からの影響力
先行研究があり、それを踏まえての追試。質問紙調査。
印象に残ったのは、HPの分析、TV番組の分析、ライブ会場の観察、タバコを買わせる実験です。
「タバコを買わせる実験」から変形させて、どの映画をみたいか、どの本をよみたいか、選ばせる実験なども思いつきます。
映画館から出てきた人にインタビューするとか・・・。不登校や引きこもりについては、今のところ方法が思いつきません。
卒業面接の光景
卒業の合否判定がどのように行われるのかが紹介されています。
審査の形態は、指導教員一人、指導教員と他2名くらいつく場合、専攻所属の教員が全員出席して発表をする場合があるようです。
3件の事例について、質疑応答する様子が述べられています。
これは、書いてから心配しましょう。
終りに
図書館での学習の合間にブラウジングをしてるとき、「レポート・卒論のテーマの決め方」を見つけて読みました。
これから論文初体験の学生にとっては、例が多く示された実用的な指導書です。
ここで紹介したほかにも、「英国大学にみるレポート作成上の注意事項」、「どうしても卒論のテーマが見つからない人のためのアドバイス」など、これから卒論を書きたいと考えている人にはぴったりの本です。
何よりも素晴らしいのは、薄い本であること。入門書はベテランが書いた薄い本に限ります。