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この本なら考える力がつく
ブログを書く素材は決まったのに、〈何をどう書いていいか分からない〉という人はいませんか? そんな人が「自分の考え、意見」を生み出そうとするときに、この本は役に立つと思います。
なぜなら、この本が思考方法を教えてくれる本だからです。この本は中学受験をする小学生に国語の問題の解答方法を指導するための本です。ところがその思考方法は、大人が考えを生み出す方法にも使えるものなのです。
「はてな」ブログ で記事を書くようになってから、文章作法に関する本を読む機会がありました。ホットエントリになった文章作法の紹介ブログに触発されて、その本を Amazon から買ったり、Amazonから買えば、さらに類似本をレコメンドされたりもして芋づる式に読みました。
それでどうなったかというと、昔と比べると文章のスタイルは良くなったようには思います。しかし、書く素材に関する事実は集まっても、自分の考えを主張出来ないという悩みが残っていました。そんなとき、「クリティカル・リーディング」を知り、「異常なほど登場人物の気持ちばかり聞く小学校の国語教育はちゃんちゃらおかしいが、理解⇒解釈⇒クリティカル・リーディングで変えられる!」というブログ記事にたどり着きました。
そして、 『まともな日本語を教えない勘違いだらけの国語教育』を読んで、小学生の国語教育は自分の国語力アップに役立つと感じて、書店の受験国語のコーナー巡りをするようになり、この本と出会ったのでした。
中学受験のための「思考の道具」
この本は、今まで読んだ文章作法の本とは書かれた目的が違います。中学受験に出題される国語の問題を解くことにターゲットを絞っているのです。だから小学生が読者なのかというとそうではなく、読者を保護者や塾講師などの大人に設定している本のようです。
法律問題と国語問題の思考方法は似ている
なぜ、中学受験国語がターゲットの本を大人に向けに書いたのでしょう。
その答えのヒントは著者の経歴にあります。著者はこんな方です。
善方 威(ぜんぽう・たけし)
早稲田大学法学部卒。中学受験国語塾 β(ベータ)国語教室代表(経営者指導責任者)。(略)
早稲田大学在学中は、司法試験受験サークル緑法会で幹事長を務める。た、司法試験受験中は、辰巳法律研究所で司法試験の模擬試験問題の作成、解説の執筆も行う。司法試験の受験勉強をきっかけとして、重症アトピーを発症(IGE13000、250以上が異常値)し、全身の免疫力が低下。救急外来への通院を繰り返し、受験を断念(現在は完治)。司法試験受験生時の 塾講師のアルバイトにて「法律の問題の解き方を国語の問題の解き方に応用できる」ことを発見。
以後、「法律のこの問題と 国語のこの問題は似ている」というユニークかつ確実な裏づけある視点を利用し、 思考力を高める方法、および、国語の問題の解き方を追究。(略)(Amazon「著者について」より)
善方さんは「法律の問題の解き方を国語の問題の解き方に応用できる」と言います。
それはどういうことなのでしょうか。「司法試験の問題」を確認してみました。
法務省が平成18年から令和3年までの司法試験問題を公開していました。
たまたま最初に開いた「令和元年司法試験問題」の「憲法」の問題が面白いものです。
- https://www.moj.go.jp/content/001293663.pdf
〔第1問〕(配点:3)
国又は地方公共団体との特殊な法律関係における人権に関する次のアからウまでの各記述について,bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい。
つまり、bに憲法に対する見解が示してあり、それから繰り広げるaの具体的な見解は妥当かというものです。
この問題なら憲法の条文を記憶している必要はありません。
- 〔第1問〕 イ.
a.特別な法律関係にある者に対して公権力が包括的な支配権を有し,法律の根拠なく人権を制限することができ,それについて裁判所の審査が及ばないとする伝統的な特別権力関係論は,日本国憲法下では妥当し得ない。
b.日本国憲法は,国会を唯一の立法機関とし,徹底した法治主義の原則をとり,基本的人権の尊重を基本原則としている。
「法律に基づかないで人権を制限することができない」という見解を導き出すなら、「b」からであり、もし、「人権を制限することができる」という見解を示すなら、「b」の見解が立ちふさがります。
「ア」の問題も「特殊な法律関係といってもいろいろあるから、別個の検討しないとダメよ」→ 個々の法律関係ごとに検討してね。
「ウ」の〈無罪推定原則〉から、〈刑事施設被収容者の人権制限〉の根拠を導くというのは明らかにおかしく、別な規定があるはずです。
この思考方法って、まさに国語の問題です。法律や法概念を知らないと解けない問題も多そうですが、「法律の問題の解き方を国語の問題の解き方に応用できる」というのに納得しました。
善方さんは、塾講師のアルバイトをしながら、司法試験受験をしていて、模擬試験問題の作成、解説の執筆もしていました。そこで「法律の問題の解き方を国語の問題の解き方に応用できる」ことに気づき、法律の問題の解き方を応用して国語の問題の解く方法を指導するようになります。
この「国語の問題の解く方法」は大人にも活用できる、この思考方法で子どもを指導して欲しいと考え、大人向けに書いたようです。
中学入試問題で「思考方法」の初歩を学ぶ
「はじめに」で、「東京都立桜修館中等教育学校」の適性検査の問題が提示されます。こんな問題です。解答を書けますか?
次の「文章A」・「文章B」を読んで、あとの問題に答えなさい。
文章A
わかろうとあせったり、意味を考えめぐらしたりなどしても、味は出てくるものではない。だから早く飲み込もうとせずに、ゆっくりと舌の上でころがしていればよいのである。そのうちに、おのずから湧然として味がわかってくる。
(和辻哲郎「露伴先生の思い出」による)
文章B
大事なことは、困難な問題に直面したときに、すぐに結論を出さないで、問題が自分のなかで立体的に見えてくるまでいわば潜水しつづけるということなのだ。それが、知性に肺活量をつけるということだ。
(鷲田清一「わかりやすいはわかりにくい?―|臨床哲学講座」による)
〈言葉の説明〉 湧然・・・水などがわき出る様子。(『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』p. 8)
もう少していねいに説明されているのですが、問題は次のとおりです。
- 物事に向き合うときの心構えについて共通する点を、二十字以上、四十字以内で分かりやすく書きましょう。
- それぞれの筆者が伝えたいことについて異なる点を、「Aは……。」、段落をかえて「Bは……。」という構成で、全体で百四十字以上、百六十字以内で分かりやすく書きましょう。
- また、この二つの文章を読んで、あなたはどのようなことを考えましたか 。
解答らんに、あなたの考えを、いくつかの段落に分けて、四百字以上、五百字以内で分かりやすく書きましょう。
これが中学受験の問題です。みなさんはどう書きますか?
私は最初、同じことを言っているのだと思いました。しかし、よく考えると違うのです。模範解答は『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』の166ページにあります。
このように中学受験の問題が次々と出題され、それを思考するためのツールが紹介されます。
Amazon の商品の説明にある目次から、使えそうな思考ツールを抜粋すると次のようになります。
- 理由を問われたら 入試問題で考える「必要性」「許容性」
- 社会問題で考える「必要性」「許容性」
(主体の「正当性」と手段の「妥当性」) - 未知の問題は大チャンス!!「似た事柄」を考えろ!
- 「多様性」と「特殊性」を同時に考える
- 政治・公民では「利益」よりも「公益」が大事
- 「お金スペシャル」需要と供給
- 地域の問題は「雨温図」で考える
- 「理性」「感情」という視点で世のなかを見る 「ニスペワン」
- 「自己主張」「妥協と協調」という視点で世のなかを見る 「ニスペツー」
「必要性」と「許容性」から考えるというのは、「令和元年司法試験問題」の人権制限の問題に当てはまりますね。刑務所は人権制限をする〈必要〉があり、その人権制限を〈許容〉するには根拠が必要です。その思考方法を中学受験に応用したようです。
「多様性」と「特殊性」、「利益」と「公益」など、基本的に〈A〉と〈B〉の対比構造で、二元論を展開する形になっています。内容からすると小学生が学ぶことなの? という驚きがありますが、型を学べば、それに当てはめて主張すべき論点を考えることができます。
だから、私に役立つのです。
共通点・相違点・自分の考え
自分の考えを述べるには、何かと比較しないと出来ません。比較しないと考えは生まれないからです。
「東京都立桜修館中等教育学校」の問題で、は2つの短い文章を比較して、共通点、相違点、自分の考え、を述べるものでした。これが何かをいうときの基本です。
「お母さんのカレーラースは美味しい」というには、何かと比較しているから言えることで、「お母さんのカレーラース」以外に何も食べたことがない人は、表現のしようがないと思うのです。
最近、楽しいブログを読みました。「おのにち」さんの「作れども作れども」です。
高校生になった息子さんが、「フードファイター級によく食べる」と嘆きながら、その対応に追われるさまが描かれています。お腹いっぱい食べさせて、たくましく育って欲しいという思いがある反面、食事を作る大変さが描かれ、そのアンビバレントな心境に共感して、私の心も暖かくなります。
このブログも、「東京都立桜修館中等教育学校」の受験問題のように〈共通点〉〈相違点〉から〈自分の考え〉が生み出されて行きます。「必要性」と「許容性」の問題でもあります。
書かれている内容を分析すると、次のような感じでしょうか。
- 過去との対比(前はそうではなかった)
〈炊飯器〉の蓋を開けてビビり、どうやって混ぜるんだよ、と一瞬ドン引き
弁当箱にごはんを詰めたら一気に減ったので、それにもまた、ドン引きした。
具体的な観察が続きます。 - 大食い番組と対比
「三キロのデカ盛り、って言うけどうちの息子の弁当もニキロ近いじゃん!」 - 「作っても作っても、無くなる」
冷蔵庫、コスパ、弟・健康について話される。 - 未来を想像して今と比較
「こんなにたくさん料理を作った日々を、いつかは懐かしく思えるのかな…」 - 大変さをボヤいて終わる
こんなに面白くブログを書ける能力に羨ましくなってしまいます。
終わりに
文章を書くとき、何をどう書いていいのか分からなくて、苦労することが多かったのですが、中学入試の国語問題を解く思考方法を紹介した『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』を知り、自分に足りない思考方法を学ぶことができました。
- 2つの事柄を比較して、共通点、相違点から自分の考えを生み出すのは、思考方法の基本。
- 「必要性」と「許容性」など、対立する概念から「二元論」を展開すれば、自分の考えを主張できる。
- 楽しいブログも同じような思考方法を使えば生まれそうです。
春から卒業研究の論文指導が始まり、62,000文字の論文を書きました。書き終えてみると、これ私が書いたの? と思えてしまいます。
指導教官の力が大きいのですが、論文を書く前に出会った『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』で得た思考方法も大きかったと思います。
それと、XMindを使うようになったのも、「なんとか書ける」と思うようになった理由です。
テーマから思いついたこと、メモをベタベタと貼り付けて考えれば、いつかはなんとかなるという自信のようなものが生まれてきました。
どう考えればよいのか分からない。そんな人に『全試験対応! わかる・書ける・受かる 超思考力』はいい本だと思います。